大阪地方裁判所 平成6年(ワ)6301号 判決 1997年10月30日
大阪府東大阪市高井田本通五丁目二七番地の二
原告
オージーケー技研株式会社
右代表者代表取締役
木村秀元
右訴訟代理人弁護士
上原洋允
水田利裕
小杉茂雄
澤田隆
山下誠
黒瀬英昭
右訴訟復代理人弁護士
市瀬義文
右輔佐人弁理士
安田敏雄
吉田昌司
本田龍雄
喜多秀樹
千葉県船橋市習志野四丁目一五番四号
被告
三王工業株式会社
右代表者代表取締役
高山豊
右訴訟代理人弁護士
神田英一
土井智雄
野間昭男
佐伯美砂紀
右輔佐人弁理士
松永宣行
主文
一 被告は、別紙イ号物件目録、ロ号物件目録、ハ号物件目録、ヘ号物件目録及びト号物件目録記載の各物件を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
二 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の各物件(完成品)及びその半製品を廃棄し、右各物件の製造に供した金型を除却せよ。
三 被告は原告に対し、金一四〇〇万九〇五〇円及びこれに対する平成六年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
六 この判決の第三項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は、別紙イ号物件目録、ロ号物件目録、ハ号物件目録、ニ号物件目録、ホ号物件目録、ヘ号物件目録及びト号物件目録記載の各物件(以下、順に「イ号物件」「ロ号物件」「ハ号物件」「ニ号物件」「ホ号物件」「ヘ号物件」「ト号物件」といい、合わせて「被告物件」と総称する)を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
二 被告は、その本店、営業所及び工場に存するイ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件(完成品)及びその半製品を廃棄し、右各物件の製造に供した金型を除却せよ。
三 被告は原告に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する平成六年七月二日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 仮執行の宣言
第二 事案の概要
本件は、後記実用新案権を有する原告が、被告の製造し、販売し、又は販売のために展示しているイ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件はいずれも右実用新案権にかかる考案の技術的範囲に属するものであり、ニ号物件及びホ号物件は右実用新案権にかかる考案の技術的範囲に属する物の製造にのみ使用するものであるから、被告物件の製造販売及び展示は、いずれも本件実用新案権を侵害するものである(ニ号物件及びホ号物件についてはいわゆる間接侵害)と主張して、被告物件の製造販売及び販売のための展示の差止め並びにイ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件、ト号物件(完成品)及びその半製品の廃棄、右各物件の製造に供した金型の除却を求めるとともに、被告がイ号物件、ロ号物件及びハ号物件を製造、販売することにより原告の被った損害の賠償を求める事案である。
なお、原告は、ニ号物件及びホ号物件について製造販売等の差止め及びその廃棄等を請求していたところ、平成八年九月一七日に右請求にかかる訴えを取り下げたが、被告は、右廃棄等請求にかかる部分の訴えの取下げには同意したものの、差止請求にかかる部分の訴えの取下げには異議を述べたものである。
一 原告の有する実用新案権
1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その登録実用新案を「本件考案」という)を有している(争いがない)。
登録番号 第一九三一四七六号
名称 自転車用巻込み防止カバー
出願日 昭和六三年一二月三日(実願昭六三-一五七七三四号)
出願公告日 平成三年一二月一〇日(実公平三-五五五〇九号)
登録日 平成四年九月二四日
実用新案登録請求の範囲(末尾添付の実用新案公報〔甲二。以下「本件公報」という〕参照)
「自転車の後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体からなり、該カバー体はいずれもバックホークおよび後泥除け部材に取付可能とされる自転車用巻込み防止カバーにおいて、前記バックホークに取付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置および作動を妨げない開口切欠を設けるとともに、該開口切欠の幅方向両側に後泥除け部材への固定部を設けることを特徴とする自転車用巻込み防止カバー。」
2 本件考案の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という)の記載を参酌すれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、次の構成要件に分説するのが相当である。
A 自転車の後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体からなり、該カバー体はいずれもバックホーク及び後泥除け部材に取付可能とされる自転車用巻込み防止カバーにおいて、
B 前記バックホークに取り付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置及び作動を妨げない開口切欠を設けるとともに、
C 該開口切欠の幅方向両側に後泥除け部材への固定部を設ける
D ことを特徴とする自転車用巻込み防止カバー。
3 本件考案の作用効果について、本件明細書には次のとおり記載されている。
(一) 作用(本件公報3欄2~15行)
本考案の上記した技術的手段によれば、巻込み防止カバーにおいて、バックホークに取付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置および作動を妨げない開口切欠を設けることによって、後泥除け部材をまたいで後車輪両側面に垂下する馬蹄錠の主体を容易に干渉のおそれなく設置でき、また施、解錠操作も容易に得られるとともに、この開口切欠の幅方向両側に設けた固定部を後泥除け部材側に連結固定することにより、開口切欠の変形を阻止し、強度上の弱点を生じることなく、また開口切欠であるため、防止カバーにおける両カバー体に成形することもきわめて容易化され、必要構造のシンプル化も得られるのである。
(二) 効果(本件公報5欄11行~6欄9行)
本考案によれば、自転車後車輪錠として多用される馬蹄錠を用いるものにおいて、その自転車用巻込み防止カバー19における両カバー体20、21において、該馬蹄錠の設置場所と対応する円弧上外周部22、22側に、開口切欠30、30を開設するとともに、該切欠30、30を固定部31によって後泥除け部材6側に固定可能としたので、馬蹄錠16の設置やその施、解錠操作に全く支障を生じることなく、かつ衣類等の巻込み防止が得られるのである。このさい、開口切欠30であるため、従来の錠逃がし窓のようにカバー体20、21の整形強度を低下させるおそれなく、開口切欠の幅方向両側は後泥除け部材6側に固定されるため、拡開変形のおそれなく、また成形に当たってもカバー体20、21の周辺に開口される切欠のため、成形工作も容易化され、より簡単な必要構造で足りる点も有利である。
二 被告による被告物件の製造販売
被告が少なくとも過去に被告物件(別紙イ号物件目録、ロ号物件目録、ハ号物件目録、ニ号物件目録、ホ号物件目録、ヘ号物件目録及びト号物件目録記載の各物件)を製造、販売していたことは、当事者間に争いがない。
三 争点
1 被告物件は、本件考案の技術的範囲に属するか。
(一) 被告物件は、構成要件Aにいう「カバー体」を具備するか。
(二) 被告物件は、構成要件Bにいう「開口切欠」を具備するか。
(三) イ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件は構成要件Cにいう「固定部」を具備するか。
2 構成要件Cにいう「固定部」を具備しないニ号物件及びホ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する物の製造にのみ使用するものであるか。
3 被告は、将来被告物件を製造、販売するおそれがあるか。
4 被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告物件は、本件考案の技術的範囲に属するか)の(一)(被告物件は、構成要件Aにいう「カバー体」を具備するか)について
【原告の主張】
本件考案の構成要件Aにいう「後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体」とは、外側外周部のほぼ全域が後車輪の外周に沿う凸状外周部を有する扇形状のカバー体に限られるものではなく、後車輪の外周に沿う円弧の中心側にへこんだ凹状外周部を有する弓形帯状のカバー体を含むものであるから、被告物件の弓形帯状カバー体は、本件考案の「カバー体」に該当する。
1(一) 実用新案登録出願をした者は、その考案について可能な限り最大限の保護を求めて出願したと考えるのが自然かつ合理的であるから、出願人が意識してその考案の技術的範囲を限定しているというためには、明細書その他の出願書類にこれを限定している旨が明らかにされていることを要すると解すべきである。
本件明細書の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の欄には「カバー体」の形状を、殊更その外側外周部のほぼ全域が後車輪の外周に沿う凸状外周部を有する扇形状のものに限定する旨の記載はなく、後車輪の外周に沿う円弧の中心側にへこんだ凹状外周部を有する弓形帯状のものを特に除外する旨の記載もない。本件明細書において扇形状のカバー体を従来の技術の項や実施例の項に挙げているのは、あくまでも本件考案の技術的思想を具体化するための一態様を例示的に説明するためにすぎず、弓形帯状のカバー体を本件考案の技術的思想から除外するためではない。
(二) 自転車用巻込み防止カバーにおけるカバー体が本件考案にいう「自転車の後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体」に該当するか否かは、その形状が弓形帯状であるか、扇形状であるかという形式的な形状の如何ではなく、カバー体が衣類の巻込み防止機能を奏しうる程度に後車輪の左右両側に配置されているか否かによって判断すべきである。
被告物件は、その外側外周部に大きな凹状外周部が形成されているとはいえ、衣類の巻込み防止機能を奏する「自転車用巻込み防止カバー」として製造、販売されていたものであり、カバー体に凹状外周部を形成し、その全体形状を弓形帯状にしたことによって衣類の巻込み防止機能が根本的に阻害されるわけではない。したがって、被告物件のカバー体も、本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」に該当する。
2 被告は、被告物件のカバー体1は、馬蹄錠の設置位置に凸状外周部を有しない、すなわち馬蹄錠の設置及び作動を妨げない弓形帯状であるから、本件考案の構成要件Aにいう「後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体」には該当しないと主張するが、本件考案にいう「カバー体」の意義を扇形状のカバー体に不当に限定解釈した上で弓形帯状カバー体及びその凹状外周部の本来の機能を全く無視するものである。
被告は、被告物件の弓形帯状のカバー体は、その形状からしてそもそも馬蹄錠の設置及び作動に支障とならないと主張するが、弓形帯状のカバー体であっても、凹状外周部の凹み深さが浅すぎる場合には、馬蹄錠と干渉してその設置や作動に支障が生じることになるから、かかる支障が生じうるのは扇形状のカバー体に限ったことではなく、凹状外周部を有する弓形帯状のカバー体の採用によって当然に馬蹄錠の作動に支障がなくなるわけではない。
このように、被告物件のような弓形帯状のカバー体も、馬蹄錠の設置や作動に支障が生じうる以上、構成要件Aにいう「カバー体」に含まれると解すべきである。
【被告の主張】
本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」は、一定の角度範囲で後泥除け部材に沿って後車輪を覆うために後車輪の外周に沿う凸状外周部を有する扇形状カバー体であるところ、被告物件のカバー体1は、馬蹄錠の設置位置に凸状外周部を有しない、すなわち馬蹄錠の設置及び作動を妨げない弓形帯状であるから、本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」に該当しない。
1(一) 本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」が自転車の後輪における左右両側をどのように覆うかについて、実用新案登録請求の範囲の記載では一義的に明確に理解することができないので、本件明細書の実用新案登録請求の範囲以外の記載を参照してその技術的意義を明らかにすべきところ、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、「本考案の巻込み防止カバー19は第6図にその取付状態、第1図に全体の展開状態を示すように、略対称形状の左右一対のカバー体20、21からなり、後車輪4の外周に沿う円弧状外周部22、22とチエンカバー15に沿う前下端部23、23とステー8に沿う後縁部24とからなり」との記載(本件公報3欄37~43行)、及び「本考案はかかる左右一対のカバー体20、21において、第1図乃至第4図に亘って示すように、後車輪4の外周に沿う円弧状外周部22、22に、先に第6図において示したバックホーク10に取付けられる馬蹄錠16と対応する位置に、その設置および施、解錠操作の妨げにならない広さの開口切欠30、30を形成するのである。」との記載(同4欄10~16行)があり、第6図には、約一一〇度の角度範囲で後泥除けカバー6に沿って後車輪4を覆うカバー19が示されている。
右の記載によれば、本件考案にいうカバー体は、周知技術及び公知技術におけると同様、一定の角度範囲で後泥除け部材に沿って後車輪を覆うものであり、そのために後車輪の外周に沿う凸状外周部を有するものすなわち扇形状カバー体であると解さなければならない。このことは、仮にカバー体が後車輪の外周に沿わない凹状外周部を有する場合には後泥除け部材に沿って後車輪を覆うことができないことから明らかである。周知の同種カバー(乙七ないし九)及び公知の同種カバー(乙一〇)も、カバー体は一定の角度範囲で後泥除け部材に沿って後車輪を覆うものであり、そのため後車輪の外周に沿う凸状外周部を有している。
(二) 本件考案は、右のとおりその出願前に周知の、後車輪の外周に沿う凸状外周部を有し、後泥除けカバーに沿って後車輪を覆い、したがって馬蹄錠の設置及び作動に支障となる扇形状のカバー体を採用することを前提として、錠逃がし窓(本件公報2欄3行)を備える公知の巻込み防止カバーにおける馬蹄錠には適用できないなどの問題点を解決することを課題とし、扇形状のカバー体に錠逃がし窓に代わる開口切欠(構成要件B)を設けたことに本件考案の格別の構成があるということができる。
したがって、本件考案がその格別な構成によってその目的を達成するのは、その構成によって解決される問題が存する、馬蹄錠の設置位置に凸状外周部を有する扇形状カバー体により構成される巻込み防止カバーにおいてであって、その問題が存しない弓形帯状カバー体により構成される巻込み防止カバーにおいてではない。
2 これに対し、被告物件のカバー体1は、その全体形状が弓形帯状であり、そのため、後泥除け部材に沿って後車輪を扇形状に覆う扇形状カバー体と比較して、後車輪のより小範囲を弓形帯状に覆うにすぎないから、後車輪を覆う範囲又は広さに著しい差異がある。この差異により、被告物件の弓形帯状カバー体は、本件考案の扇形状カバー体が馬蹄錠の設置及び作動に支障となるのに対し、その形状からしてそもそも馬蹄錠の設置及び作動に支障とならないという根本的な差異がある。
このように、被告物件のカバー体1は、馬蹄錠の設置位置に凸状外周部を有しない、すなわち馬蹄錠の設置及び作動を妨げない弓形帯状であるから、本件考案の構成要件Aにいう「後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体」に該当しないことが明らかである。
原告は、被告物件のような弓形帯状のカバー体も、馬蹄錠の設置や作動に支障が生じうる以上、構成要件Aにいう「カバー体」に含まれると主張するが、被告物件のカバー体1は、馬蹄錠の設置及び作動に支障を生じないカバー体である。馬蹄錠の設置及び作動に支障を生じうる弓形帯状のカバー体については、本件明細書に何ら記載がないから、馬蹄錠の設置及び作動に支障が生じうる弓形帯状カバー体というものは、根拠のない空想の産物であり、かかる空想の産物をもって、本件考案が扇形状のカバー体の採用を前提としない、とはいえない。
二 争点1(二)(被告物件は、構成要件Bにいう「開口切欠」を具備するか)について
【原告の主張】
本件考案の構成要件Bにいう「開口切欠」は、「馬蹄錠の設置及び作動を妨げない」よう形成されたものであれば、その形状及び大きさは本件考案の本来の機能である衣類の巻込み防止機能を果たしうる限りで制限がないから、被告物件における凹状外周部1Cは右「開口切欠」に該当する。
1 まず、被告は、本件考案がいわゆる進歩性を欠如するとか、実用新案登録請求の範囲の記載が不明瞭である旨主張して、本件考案の技術的範囲は実施例、図面などを考慮してこれを最も狭く解すべきであると主張するが、本件考案の進歩性を否定する証拠はなく(構成要件Cについてこれを開示する資料が存しない)、また、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載には何ら不明確ないし不完全な点はなく、それのみによって考案の内容を明確に認識できるものである。
2(一) 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載中の構成要件B「前記バックホークに取り付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置及び作動を妨げない開口切欠を設けるとともに」によれば、「開口切欠」は「馬蹄錠の設置及び作動を妨げない」ものであれば足りるのであり、考案の詳細な説明の欄においても、例えば「開口切欠」の形状が凹状に湾曲したり、前後や周の長さが必要以上に長くなってはいけない等の記載はなく、その他被告物件における凹状外周部のような形状を除外することを示唆する記載はなく、かえって、「その形状はもとより自由であるが、使用される馬蹄錠16の大小、形状に応じて、その設置および施、解錠操作を妨げない適切な形状のものとされる。」(本件公報4欄21~24行)として、「開口切欠」の形状が実施例のものに限定されないことを宣明している。
したがって、「開口切欠」は、馬蹄錠の設置及び作動を妨げないように凸状外周部から後車輪の径内方向に変位したへこみ部をいうと解すべきである。
(二) 「開口切欠」を被告主張のように「材料の縁に局部的にできたへこみ部」と定義することについては特に異論はないが、右にいう「局部」とは「全体のうちのある一部分」をいうとされていて、その「一部分」の範囲がどの程度なのか不明であるから、「開口切欠」についての右の定義に従ったとしても、当然に右「開口切欠」が馬蹄錠の設置及び作動を妨げない「必要最小限の大きさ」でなければならないということにはならない。その「局部」を「全体のうちのある一部分」と解する限り、被告物件の「凹状外周部」もカバー体に「局部的」に設けた凹みであって、本件考案の「開口切欠」に該当するのである。
「開口切欠」の大きさに何らかの制限がありうることについても特に異論はないが、「開口切欠」の大きさに制限(限界)があるとすれば、それは、被告のいう馬蹄錠の設置及び作動を妨げない「必要最小限の大きさ」ではなく、それ以上大きくすると本件考案の対象たる自転車用巻込み防止カバーとしての基本的機能である衣類の巻込み防止機能が損なわれ、巻込み防止カバーとして成立しなくなる大きさである。
3(一) 被告物件における弓形帯状カバー体の「凹状外周部」は、本件明細書の実施例に記載された「開口切欠」よりも前後方向に大きく広がってはいるが、被告物件も、衣類の巻込み防止機能を奏する「自転車用巻込み防止カバー」として製造、販売されていた以上、その「凹状外周部」を形成したことによって、衣類の巻込み防止機能が根本的に阻害されるものではないから、被告物件の凹状外周部1Cにより形成される「大きな円弧状の空間」も、前記の開口切欠の大きさの制限(限界)内にあり、本件考案にいう「開口切欠」に該当するというべきである。
(二) 被告は、本件考案の構成要件Bにいう「開口切欠」は凸状外周部から内方へ入り込んで設けられるものをいうところ、被告物件のカバー体1は、その凹状外周部1Cから内方へ入り込んで設けられた何ものも有していないと主張する。
しかし、被告物件の弓形帯状のカバー体1にも、その外周縁部に第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1Bが残されていて、しかも、同カバー体1に「馬蹄錠の設置及び作動を妨げない」大きさの凹状外周部1Cが形成されている以上、扇形カバー体の外周縁部全域と被告物件のカバー体1の凹状外周部1Cとを対比して「開口切欠」の有無を論じるのは甚だ不自然であって、その対比においては、両カバー体において同じ機能を有する部分同士、すなわち、扇形カバー体の凸状外周部と被告物件の弓形帯状カバー体の外周縁部に残されている第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1Bとを、前者の「開口切欠」と後者の凹状外周部とを対比して「開口切欠」の有無を論じるべきである。そうすると、被告物件の弓形帯状カバー体1に形成されている凹状外周部1Cは、馬蹄錠の設置及び作動を妨げない十分な大きさで第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1Bから内方へ入り込んで形成されているのであり、しかも、この部分を形成しても弓形帯状カバー体の衣類の巻込み防止機能が根本的に損なわれるわけではなく、本件考案にいう「開口切欠」と同じ機能を奏するのは明らかであるから、「開口切欠」に該当するというべきである。
被告は、被告物件の凹状外周部1Cにより形成される大きな円弧状の空間は、カバー体1全体の形状に由来するものであって、カバー体1に開口切欠を設けたことによるものではないと主張する。しかし、本件考案の実施例に示されている方形の空間(開口切欠)を幅方向に段階的に広げていくと、被告物件における凹状外周部1Cによって形成される大きな円弧状の空間になるに至るところ、もし被告の主張のとおりとすると、「開口切欠」から凹状外周部1Cによって形成される大きな円弧状の空間に至る間において、「開口切欠」ではなくなる境界の空間が存在することになるが、いずれの段階の空間も馬蹄錠を設置、作動することができるサイズの空間である点において共通する以上、「開口切欠」ではなくなる境界の空間などは全く存在しないから、すべての段階の空間が本件考案にいう「開口切欠」に含まれるのである。
(三) 被告は、被告物件は馬蹄錠の設置及び作動を妨げないだけでなく、一般の後車輪の錠の設置及び作動も妨げないという、本件考案より優れた効果を奏すると主張するが、これは、あくまでも本件考案にいう「開口切欠」の存在を前提として、これを広幅にしたことによって生じるものであり、本件考案の奏する効果と同じ効果を奏しえなくなるというわけではないので、被告物件が本件考案の構成要件Bを備えることに何ら変わりはない。
【被告の主張】
被告物件における凹状外周部1Cは、本件考案の構成要件Bにいう「開口切欠」には該当せず、被告物件は右「開口切欠」を具備しない。
1 本件考案の構成要件A及びCは出願前に周知の技術であり、構成要件Bは出願前公知の技術である(乙五)から、本件考案の技術的範囲は、実用新案登録請求の範囲の記載により、右記載が不明瞭の場合は、実施例、図面などを考慮してこれを最も狭く解すべきである。
2(一) 「開口切欠」の形状については、実用新案登録請求の範囲に具体的な記載がないから、実施例及び図面に明示されたところから判断すべきところ、本件考案は、カバー体の外周部22、22の馬蹄錠と対応する位置に、その設置及び施・解錠操作の妨げにならない広さの開口切欠30、30を形成するものであり、その形状は自由であるが、使用される馬蹄錠の大小、形状に応じてその設置及び施・解錠操作を妨げない適切な形状とされ、また、円弧状外周部22から内方に入り込む前後方向の側辺30a、30aと、両側辺30a、30aの下端と係合部27の上端とをつなぐ底辺30bとによって囲まれた切欠とされている(本件公報4欄10~24行参照)。
右記載によれば、「開口切欠」は、一対のカバー体のそれぞれに設けられ、各カバー体の後車輪の外周に沿う円弧状外周部22から内方へ入り込む側辺30a、30aと底辺30bによって囲まれた切欠であるから、三つの側辺ないし底辺によって囲まれた実施例記載の形状に限られないにしても、各カバー体に後車輪の外周に沿う円弧状外周部すなわち凸状外周部から内方へ入り込んで設けられるものであると解さなければならない。
このように解することは、構成要件Cの「固定部」の存在理由、すなわち、開口切欠がカバー体の凸状外周部から内方へ入り込んで設けられるが故に、開口切欠に拡開、変形のおそれが生じ、強度上の弱点が生じるので、この拡開、変形を阻止し、強度上の弱点を補強するために、「該開口切欠の幅方向両側に後泥除け部材への固定部を設ける」(構成要件C)ということからしても、正当である。
(二) 開口切欠は、国語辞典や用語辞典に見られない造語であるが、本件明細書においては右のように「切欠」と同じ意味をもつ語として用いられているところ、「切欠」という用語は、本件明細書において「材料の縁に局部的にできたへこみ部」(広辞苑参照)という通常の意味を有する語として用いられている。このことは、円弧状外周部22の一部分においてこれから内方に入り込んで形成されたもの、すなわち、後車輪の外周に沿う凸状外周部に局部的にできたへこみ部を切欠と称していること(第1、第2図)から明らかである。
原告は、「開口切欠」を「材料の縁に局部的にできたへこみ部」と定義することについては特に異論はないとするのであるが、この定義による限り、開口切欠はカバー体に局部的に設けられた凹みではなく、カバー体の縁すなわち凸状外周部に局部的に設けられた「へこみ」であると解さなければならない。開口切欠は、馬蹄錠の設置及び作動を妨げないために設けられるものであり、そのために各カバー体に後車輪の外周に沿う凸状外周部から内方へ入り込んで設けられるものであるからにほかならない。そもそも、「局部」は全体のある一部分を意味し、この「一部分」の「「一」はわずかであることを、「部分」は全体の中の一箇所を意味するから、結局、凸状外周部に局部的にできたへこみ部とは、凸状外周部全体のわずかな箇所にできたへこみ部である、と解するのが相当である。
その大きさの範囲としては、馬蹄錠の設置及び作動を妨げない大きさを下限とし、これに若干の余裕をもたせた大きさ(例えば乙第一一号証の1の各写真に示される程度の大きさ)を上限とすることが自ら導き出される。本件考案にいうカバー体は、一定の角度範囲ながら後車輪を覆うものであるから、これに開口切欠を設けてもなお後車輪を覆うものでなくてはならないが、その程度を超えて後車輪を覆わない程度に大きくてはならないのである。すなわち、カバー体に設けられる開口切欠が馬蹄錠の設置及び作動上の必要を満たさない大きさであれば馬蹄錠の設置及び作動に支障を来し、右の必要を満たして余りある大きさであればカバー体は後車輪を覆わなくなるから、開口切欠の大きさは、「馬蹄錠の設置及び作動を妨げない」必要最小限の大きさでなければならない。当然ながら、本件明細書の考案の詳細な説明の欄にも、開口切欠の大きさは無制限である旨の記載は全くない。
したがって、開口切欠を凸状外周部全体に設けることを含むことになる、「衣類の巻込み防止機能」が損なわれない限りいくら大きくてもよい、ということはできないから、開口切欠の大きさは自転車用巻込み防止カバーとしての基本的機能である衣類の巻込み防止機能が損なわれない限り無制限であるとする趣旨の原告の主張は誤りである。
3(一) 被告物件のカバー体1は、いずれも、その凹状外周部1Cから内方へ入り込んで設けられた何ものも有していない。被告物件は、カバー体1全体の形状そのものが弓形帯状であって凹状外周部1Cを有するので、取付状態において後車輪の外周とカバー体の外周部との間(後泥除け部材とバックホークとが交差する部分)に大きな円弧状の空間が確保され、馬蹄錠設置のために公知技術のように「錠逃がし窓」を設ける必要も、本件考案のように「開口切欠」を設ける必要もないからである。前記のとおり、本件考案は、馬蹄錠の設置及び作動に支障となる扇形状のカバー体を採用することを前提として、錠逃がし窓を備える公知の巻込み防止用カバーにおける馬蹄錠には適用できないなどの問題点を解決することを課題とし、扇形状のカバー体に錠逃がし窓に代わる開口切欠を設けたことを特徴とするものであるところ、被告物件においては、右のような公知技術によって改善されるべき不便(施、解錠に対する支障等)もなければ、本件考案によって改善されるべき欠点(馬蹄錠への適用性欠如等)もないのである。
右の大きな円弧状の空間が生じることにより、結果的に馬蹄錠の設置及び作動を妨げない効果も奏することになるが、これはカバー体1全体の形状に由来するものであって、カバー体1に開口切欠を設けたことによるものではない。
(二) 原告は、被告物件の凹状外周部1Cが本件考案にいう「開口切欠」に該当すると主張する。
しかしながら、本件考案にいう開口切欠は前記2(二)のとおり凸状外周部全体のわずかな箇所にできたへこみ部であるところ、被告物件における凹状外周部1Cの周の長さは、第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1Bの周の長さよりもかなり長く(約一・五倍)、外周部全体のうちのあまりにも大きな範囲を占めるものであり、第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1Bは細長い弓形帯状のカバー体の一端部及び他端部に当たり、凹状外周部1Cはほぼ平行な両側部の一方に当たるから、凹状外周部1Cを凸状外周部全体のわずかな箇所にできたへこみ部(切欠)と観念することは到底不可能である。
また、前記のとおり、本件考案にいう「開口切欠」の大きさの範囲としては、馬蹄錠の設置及び作動を妨げない大きさを下限とし、これに若干の余裕をもたせた大きさを上限とするところ、被告物件における凹状外周部1Cの大きさは右上限を大きく超えるものである。
そもそも、本件考案にいう「開口切欠」は、これを設けなければ馬蹄錠の設置及び作動に支障を来す位置に設けるものであるから、これが被告物件に存在するとすれば、二つの凸状外周部1A、1Bのいずれかに設けられていなければならないところ、被告物件におけるいずれの凸状外周部にも開口切欠は設けられていない。
原告は凹状外周部1Cは開口切欠と同じ機能を奏する旨主張するが、機能が同一であるからといって構成も同一であるといえないことは明らかである。
(三) 被告物件は、前記のとおりカバー体1全体の形状そのものが弓形帯状であって凹状外周部1Cを有することにより、後車輪の外周とカバー体の外周部との間に大きな円弧状の空間が確保されるから、馬蹄錠の設置及び作動を妨げないだけでなく、一般の後車輪の錠の設置及び作動も妨げないという、本件考案より優れた効果を奏するものである。
三 争点1(三)(イ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件は、構成要件Cにいう「固定部」を具備するか)について
【原告の主張】
本件考案の構成要件Cにいう「固定部」は、カバー体を補強する目的で設けられていれば足りるところ、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件のカバー体1に設けられた第二取付部5及び第三取付部6、ヘ号物件及びト号物件のカバー体1に設けられたベルト状連結部17及び第三取付部6は、いずれもカバー体を後泥除け部材に取り付ける目的のほか、カバー体を補強する目的を有するから、構成要件Cにいう「固定部」に該当する。
1 本件考案にいう「固定部」であるかどうかは、カバー体を補強する目的で設けられたものであるか否かを認定すれば足りるというべきである。
被告は、構成要件Cにいう「固定」を構成要件Aにいう「取付」と明確に区別し、取付目的の部材であればすなわち固定目的の部材でないと即断するようであるが、カバー体を後泥除け部材に装着するための部材には、取付目的と補強目的とを兼ね備えている場合があるから、取付目的の部材であるからといって直ちに補強目的の「固定部」であることを否定する理由にはならない。例えば、本件考案の実施例として記載されている扇形カバー体において、「挟持爪状の固定部31」を欠落させて前端の連結片36と後端の係合片34及び係止片35しか有しない場合を想定すると、かかる扇形カバー体では、もはや後泥除け部材に取り付けることができないから、当該扇形カバー体の「挟持爪状の固定部31」は、カバー体を補強する目的だけでなくこれを後泥除け部材に取り付ける目的も兼ね備えているのである。
2(一) イ号物件、ロ号物件及びハ号物件のカバー体1に設けられた第二取付部5及び第三取付部6、ヘ号物件及びト号物件のカバー体に設けられたベルト状連結部17及び第三取付部6は、カバー体1を後泥除け部材へ取り付けるための「取付部」であると同時に凹状外周部1Cを形成したことに伴うカバー体1の強度上の弱点を補強する機能を有すると解されるので、構成要件Cにいう「固定部」に該当する。けだし、この取付部が欠落すると、本件考案の実施例として記載されている扇形カバー体の場合と同様に、後泥除け部材への取付けが困難になるとともに、弓形帯状カバー体が可撓性を有する合成樹脂よりなるため、凹状外周部1Cと両凸状外周部1A、1Bとの交差部分がブラブラして使用に耐えなくなるからである。
(二) 前記のとおり、被告物件における凹状外周部1Cは、本件考案にいう「開口切欠」に該当し、後車輪に沿う両凸状外周部1A、1Bと交差した形で後車輪の径内方向へ変位したへこみ部であるから、かかる凹状外周部1Cを設ければ、カバー体1(特に凹状外周部1Cの両端付近)に強度上の弱点が生じうることは明らかである。
イ号物件、ロ号物件及びハ号物件の第二取付部5及び第三取付部6は、両凸状外周部1A、1Bの内端(凹状外周部1Cの両端)に設けられているから、これらの取付部5、6は、カバー体1を後泥除け部材4に取り付ける機能を有すると同時に、凹状外周部1Cの両端付近のカバー体1の変形を防止する機能を有することは明白である。
また、へ号物件及びト号物件は、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件における第二取付部5の代わりにベルト状連結部17を採用しているが、このベルト状連結部17は第一凸状外周部1Aの内端(凹状外周部1Cの一端)に連結されているので、凹状外周部1Cの一端付近のカバー体1の変形を防止する機能を有することは明白である。
(三) なお、被告は、本件訴訟の当初、凹状外周部1Cと第一凸状外周部1Aとの交差部分(凹状外周部1Cにより形成される「空間」(開口切欠)の幅方向前側)の取付部を欠落させたニ号物件及びホ号物件を製造、販売しているとしながら、その後すぐにその製造販売をやめ、同じ部分にベルト状連結部17を備えたヘ号物件及びト号物件の製造販売を始めたというのであって、かかる経緯に鑑みれば、右部分にカバー体を補強する目的の部材が必要であることは、被告自身も自認しているものと推認できる。
【被告の主張】
本件考案の構成要件Cにいう「固定部」は、カバー体に「開口切欠」を設けることによって該カバー体に生じる強度上の弱点を補強する目的(補強目的)で設けられるものであるところ、イ号物件、ロ号物件、ハ号物件のカバー体1に設けられた第二取付部5及び第三取付部6、ヘ号物件及びト号物件のカバー体1に設けられたベルト状連結部17及び第三取付部6は、右補強目的で設けられたものではないから、本件考案の構成要件Cにいう「固定部」に該当しない。
1(一) 本件考案の構成要件Cにいう「固定部」は、構成要件Bにいう「開口切欠」をカバー体に設けることによってカバー体に生じる強度上の弱点を補強する目的(補強目的)で設けられるものである。このことは、本件明細書における「この開口切欠の幅方向両側に設けた固定部を後泥除け部材側に連結固定することにより、開口切欠の変形を阻止し、強度上の弱点を生じることなく」(本件公報3欄9~12行)との作用についての記載、(開口切欠の)「両側辺30a、30aの各上端における反車輪面には、後泥除け部材6の両側縁6a、6aに係脱可能に係止される挟持爪状の固定部31が突設されるのであり、これによって開口切欠30は拡開、変形のおそれなく確実に保持固定されることになる。」(同4欄24~29行)との実施例についての記載、「開口切欠の幅方向両側は後泥除け部材6側に固定されるため、拡開変形のおそれなく」(同6欄4~6行)との効果についての記載から明らかである。
なぜなら、カバー体に開口切欠を設けることによって、該カバー体の凸状外周部に角(かど)、すなわち右記載の「両側辺30a、30bの各上端」である自由端を生じ、この自由端が変形性を有し、強度上の弱点になるので、右の自由端を拘束し、開口切欠を拡開、変形させなくするのが、構成要件Cにいう固定部の働きであるからである。
(二) 固定部は、右のように開口切欠を両カバー体に設けることによってカバー体に生じる強度上の弱点を補強する目的(補強目的)で設けられるものであり、両カバー体を後泥除け部材に取り付ける目的(取付目的)で設けられるものではなく、構成要件Aにいう「バックホーク及び後泥除け部材に取付可能」における「取付」とは明確に区別されるべきものである。すなわち、両カバー体の連結は、例えば、円弧状外周部(凸状外周部)22の前部側の連結片36と、円弧状外周部22の後部側の係合片34及び係止片35とにより行われ、また、両カバー体の後泥除け部材への取付けは、連結片36と、連結した係合片34及び係止片35とが後泥除け部材上にこれを跨いで配設されることによって行われる(本件公報4欄34行~5欄6行)ものであるから、構成要件Cにいう「固定部」は、両カバー体の連結や両カバー体の後泥除け部材への取付けとは全く関わりがない。
(三) 原告は、本件考案においてカバー体を後泥除け部材に装着するための部材には取付目的と補強目的とを兼ね備えている場合がある旨主張するが、そのような場合はない。このことは、本件考案の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の欄にそのような場合について何ら記載がないことから明らかである。
また、原告は、本件考案の実施例として記載されている扇形カバー体において、「挟持爪状の固定部31」を欠落させて前端の連結片36と後端の係合片34及び係止片35しか有しない場合を想定すると、かかる扇形カバー体では、もはや後泥除け部材に取り付けることができないと主張するが、「挟持爪状の固定部31」を欠落させる実施例は、本件明細書及び図面に記載がなく、原告の右の想定には何ら根拠がないから、かかる想定を基礎とする原告の主張は理由がない。
2(一) イ号物件、ロ号物件及びハ号物件のカバー体1に設けられた第二取付部5及び第三取付部6、ヘ号物件及びト号物件のカバー体1に設けられたベルト状連結部17及び第三取付部6は、カバー体1を後泥除け部材4に取り付ける目的(取付目的)で設けられたものであって、右いずれの部分も、開口切欠を設けたときに生じる強度上の弱点を補強する目的(補強目的)で設けられたものではない。そもそも「開口切欠」を有しない被告物件は、「開口切欠」を設けたときに生じる強度上の弱点を補強する目的(補強目的)で設けられる何ものも有しないのである。
被告物件は「バックホーク及び後泥除け部材に取付可能(構成要件A)」であるにすぎず、そのためにバックホークへの取付部及び後泥除け部材への取付部を有するにすぎない。
(二) 原告は、被告はニ号物件及びホ号物件では凹状外周部1Cと第一凸状外周部1Aとの交差部分から「取付部」を欠落させ、その後ヘ号物件及びト号物件では右交差部分にベルト状の「取付部」を復活させた旨主張するが、ここにいう「取付部」は開口切欠を補強する目的の固定部ではない。被告物件は、弓形帯状のカバー体1の端部分に当たる両凸状外周部1A、1Bに設けられた少なくとも一つの取付部6、その中央部分に設けられたバックホークへの第一取付部3、両凸状外周部1A、1Bの一方に設けられたベルト状連結部7及びその他方に設けられた連結用ベルト8によって、自転車に安定的に取り付けられ、使用上何ら支障がない。
(三) 仮に、被告物件の凹状外周部1Cが「開口切欠」に相当し、ヘ号物件及びト号物件における後泥除け部材への第三取付部6が固定部に相当するとしても、この第三取付部6は、「開口切欠」の幅方向片側にのみ設けられた固定部であるにすぎないから、ヘ号物件及びト号物件は、「開口切欠」の幅方向両側に設けることを不可欠とする本件考案の構成とは異なる。
四 争点2(構成要件Cにいう「固定部」を具備しないニ号物件及びホ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する物の製造にのみ使用するものであるか)について
【原告の主張】
ニ号物件及びホ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する自転車用巻込み防止カバーの製造にのみ使用するものであるから、その製造販売及び展示は本件実用新案権のいわゆる間接侵害を構成する。
1 ニ号物件及びホ号物件は、本件考案にいう「開口切欠」に該当する凹状外周部1Cの幅方向の後側にのみ「後泥除け部材への固定部」に該当する第三取付部が設けられており、構成要件C「該開口切欠の幅方向両側に泥除け部材への固定部を設ける」を充足しないので本件考案の技術的範囲に属しない。
しかしながら、二号物件及びホ号物件は、可撓性を有する合成樹脂でできており、しかも凹状外周部1Cにより形成される「大きな円弧状の空間」(開口切欠)を備えていてそれ自体では自立し難いため、右「空間」の前側に「固定部」を設けないと、カバー体の前部が自転車の振動等により左右に振れ、後泥除け部材に当たって不快音が発生したり、スポークに食い込んだりする危険性が高く、実際の使用に堪えないことが明らかである。
そして、右「空間」の前側には「固定部」が設けられていないといっても、「固定部」に該当するイ号物件、ロ号物件及びハ号物件における第二取付部が切除されているだけで四角形状の小枠体が残されたままであるので、左右のカバー体の小枠体同士を紐材や針金等で互いに連結すれば、極めて容易に本件考案にかかる自転車用巻込み防止カバーを実現することができるから、ニ号物件及びホ号物件が市場に出た場合、ユーザーがあえてこれらを使用するとすれば、自らこの小枠体同士を紐材や針金等で互いに連結することにより「固定部」に仕立てる蓋然性がきわめて高い。
更に、被告は、前記三【原告の主張】2(三)のとおり、本件訴訟の当初、右のように凹状外周部1Cにより形成される「空間」(開口切欠)の幅方向前側の取付部を欠落させたニ号物件及びホ号物件を製造、販売しているとしながら、その後すぐにその製造販売をやめ、同じ部分にベルト状連結部17を備えたヘ号物件及びト号物件の製造販売を始めたというのであって、かかる経緯に鑑みれば、被告自身も、右「空間」の幅方向前側に「固定部」を有しないカバー体では実際の使用に堪えないことを十分に認識しているものと解されるので、被告が右のような紐材や針金等の連結部材を別売りするおそれもある。
2 被告は、ニ号物件及びホ号物件は完成品であって、その取付け及び使用のために何らの付加的な加工、組付け等を要しない旨主張する。しかし、もしそうであるとすれば、わざわざ凹状外周部1Cにより形成される「空間」(開口切欠)の幅方向前側の「取付部」を欠落させたニ号物件及びホ号物件を製造、販売しているのに、その後すぐにその製造販売をやめ、同じ部分にベルト状連結部17を備えたヘ号物件及びト号物件に変更するはずがない。右部分に取付部が欠落したニ号物件及びホ号物件では、凹状外周部1Cと第一凸状外周部1Aとの交差部分がブラブラして使用に堪えないので、完成品というには程遠く、これを適切に装着するために同交差部分を後泥除け部材に連結する部材が必要であり、何らかの付加的加工や組付けを要すると解される。
【被告の主張】
1 まず、ニ号物件及びホ号物件は、イ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件と同様、本件考案の構成要件A、B及びCを欠如するから、本件考案とは技術的思想を異にするものである。
2 また、ニ号及びホ号物件は完成品であって、そのままバックホーク及び後泥除け部材に取り付けて自転車用巻込み防止カバーとして使用することができるものであり、その取付け及び使用のために何らの付加的な加工、組付け等を要しないものであるから、本件考案にかかる自転車用巻込み防止カバーの製造にのみ使用する物ではありえない。
五 争点3(被告は、将来被告物件を製造、販売するおそれがあるか)について
【被告の主張】
被告は、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件の製造を平成六年六月二三日限り中止し、同年七月二一日までに販売を完了し、その後は販売していない。更に、被告は、ニ号物件及びホ号物件を平成六年八月二三日から同年九月六日までの間製造、販売していたが、同日をもって製造を中止し、同月一七日からヘ号物件及びト号物件の製造販売を開始したが、平成七年三月一日に債権者集会を開催し、同日以降、会社の清算を目的とする任意整理のため、法人としての実際上の活動を一切停止し、被告物件の製造販売を含む一切の製造販売活動を行っておらず、また、将来それを再開する可能性も全くない。
したがって、仮に被告物件の製造販売が本件実用新案権を侵害するものであるとしても、被告は、現に被告物件を製造、販売しておらず、将来製造、販売するおそれもないから、原告は被告に対し被告物件の製造販売及び展示の差止めを求める権利を有しない。
【原告の主張】
被告は、以下のとおり、依然として将来被告物件を製造、販売するおそれがある。
1 イ号物件、ロ号物件及びハ号物件について、被告は、平成六年六月二三日限り製造を中止し、同年七月二二日以降は販売していない旨主張するが、被告がナショナル自転車工業株式会社に提示していたと思われる平成六年九月一四日付の「差替」印の押捺された設計図面(甲六)には、ハ号物件と同一と認められる巻込み防止カバーが記載されているから、被告は、同日においてもなおハ号物件の製造販売の意思があったものと考えられるのであり、被告の主張は信用できない。
2 ニ号物件及びホ号物件についても、平成六年九月六日をもって製造を中止したとの被告の主張は、前記三【原告の主張】2(三)の経緯に照らし、信用できない。
3 被告が将来においてヘ号物件及びト号物件を製造、販売するときは、これによって原告の独占ないし寡占体制が更に崩されることになる。
六 争点4(被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について
【原告の主張】
1 被告は、本件考案の出願公告の日である平成三年一二月一〇日から平成六年六月二八日までの間に、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件を少なくとも一〇〇万枚製造、販売し、一枚当たり平均して少なくとも二五円の利益を得た(なお、後記第四の六1参照)。
2 したがって、被告は、被告物件の製造販売により合計二五〇〇万円の利益を得たものであり、右額は、原告が受けた損害の額と推定される。
【被告の主張】
被告がイ号物件を平成三年三月頃から販売したことは認めるが、その余の事実は否認する。
被告がロ号物件及びハ号物件の製造販売を始めたのは平成五年一一月頃であるが、前記のとおり、イ号物件を含め、平成六年六月二三日限り製造を中止し、同年七月二二日以降は販売していない。
第四 争点に対する判断
一 争点1(被告物件は、本件考案の技術的範囲に属するか)の(一)(被告物件は、構成要件Aにいう「カバー体」を具備するか)について
1(一) 本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」の意義について検討するに、構成要件Aは、「自転車の後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体からなり、該カバー体はいずれもバックホーク及び後泥除け部材に取付可能とされる自転車用巻込み防止カバーにおいて」というものであるから、「カバー体」とは、自転車の後車輪における左右両側を覆う左右一対のものであって、バックホーク及び後泥除け部材に取付可能とされ、人が自転車に乗った際にスカート等の衣類が巻き込まれるのを防止する機能を有するものを意味することが明らかである。
そして、「カバー体」が右にいう衣類の巻込み防止機能を有するためには、円弧状の後泥除け部材から中心に向かって内側に位置し、バックホークの近辺において後車輪を覆うような形状のものであることを要するというべきであるが、それ以外には「カバー体」の形状について本件明細書において何らの限定も付されていないから、「カバー体」が右の意味で衣類の巻込みを防止する機能を有するような形状のものであれば、自転車の後車輪における左右両側を覆う左右一対のものであって、バックホーク及び後泥除け部材に取付可能とされ、円弧状の後泥除け部材から中心に向かって内側に位置し、バックホークの近辺において後車輪を覆うような形状のものである限り、どのような形状のものでも本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」に該当するというべきである。
(二) 被告は、本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」が自転車の後輪における左右両側をどのように覆うかについて、実用新案登録請求の範囲の記載では一義的に明確に理解することができないので、本件明細書の実用新案登録請求の範囲以外の記載を考慮してその技術的意義を明らかにすべきところ、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、「本考案の巻込み防止カバー19は第6図にその取付状態、第1図に全体の展開状態を示すように、略対称形状の左右一対のカバー体20、21からなり、後車輪4の外周に沿う円弧状外周部22、22とチェンカバー15に沿う前下端部23、23とステー8に沿う後縁部24とからなり」との記載(本件公報3欄37~43行)及び「本考案はかかる左右一対のカバー体20、21において、第1図乃至第4図に亘って示すように、後車輪4の外周に沿う円弧状外周部22、22に、先に第6図において示したバックホーク10に取付けられる馬蹄錠16と対応する位置に、その設置および施、解錠操作の妨げにならない広さの開口切欠30、30を形成するのである。」との記載があり、第6図には、約一一〇度の角度範囲で後泥除けカバー6に沿って後車輪4を覆うカバー19が示されているから、カバー体は、周知技術及び公知技術におけると同様に、一定の角度範囲で後泥除け部材に沿って後車輪を覆うものであり、そのために後車輪の外周に沿う凸状外周部を有するものすなわち扇形状カバー体であると解さなければならない旨主張するが、本件考案の構成要件Aの記載は前記のように一義的に明確に理解できるのであり、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の右記載及び図面は、本件考案の一実施例に関するものであることが明らかであるから、本件考案にいう「カバー体」を被告主張の扇形状カバー体に限定して解釈すべき根拠はない。
また、被告は、本件考案は、その出願前に周知の、後車輪の外周に沿う凸状外周部を有し、後泥除けカバーに沿って後車輪を覆い、したがって馬蹄錠の設置及び作動に支障となる扇形状のカバー体を採用することを前提として、錠逃がし窓(本件公報2欄3行)を備える公知の巻込み防止カバーにおける馬蹄錠には適用できないなどの問題点を解決することを課題とし、扇形状のカバー体に錠逃がし窓に代わる開口切欠(構成要件B)を設けたことに本件考案の格別の構成があるということができるから、本件考案がその格別な構成によってその目的を達成するのは、その構成によって解決される問題が存する、馬蹄錠の設置位置に凸状外周部を有する扇形状カバー体により構成される巻込み防止カバーにおいてであって、その問題が存しない弓形帯状カバー体により構成される巻込み防止カバーにおいてではないとも主張するが、扇形状カバー体といい、弓形帯状カバー体といっても明確な境界があるわけではなく、後記二における説示から明らかなように、被告のいう扇形状カバー体に設けられた実施例記載の形状の「開口切欠」の幅を広げた場合のカバー体の全体形状を弓形帯状カバー体と称しているにすぎないから、右主張も採用できない。
2(一) 被告物件のカバー体1は、本件明細書記載の実施例の形状とは異なり、全体形状が被告のいう弓形帯状であるが、自転車の後車輪における左右両側を覆う左右一対のものであって、バックホーク及び後泥除け部材に取付可能とされ、円弧状の後泥除け部材から中心に向かって内側に位置し、バックホークの近辺において後車輪を覆うような形状であることは明らかであり、スカート等の衣類が巻き込まれるのを防止するための「自転車用巻込み防止カバー」として製造、販売されたものであることは被告の認めるところであるから、凹状外周部1Cを形成することによりカバー体1の全体形状を弓形帯状にしたことによって衣類の巻込みを防止する機能が阻害されるものとは到底考えられない。
したがって、被告物件のカバー体1は、本件考案の構成要件Aにいう「カバー体」に該当し、被告物件は構成要件Aを具備するものというべきである。
(二) 被告は、本件考案のカバー体が後泥除け部材に沿って後車輪を扇形状に覆う扇形状カバー体に限定されることを前提に、被告物件のカバー体1は、その全体形状が弓形帯状であり、馬蹄錠の設置及び作動に支障となる扇形状カバー体と比較して、後車輪を覆う範囲又は広さに著しい差異があり、この差異により馬蹄錠の設置及び作動に支障とならないという根本的な差異があるのであって、被告物件のカバー体1は、馬蹄錠の設置位置に凸状外周部を有しない、すなわち馬蹄錠の設置及び作動を妨げない弓形帯状であるから、本件考案の構成要件Aにいう「後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体」に当たらない旨主張するが、本件考案のカバー体が扇形状カバー体に限定されるという前提自体が誤りであるから、失当という外はない。
二 争点1(二)(被告物件は、構成要件Bにいう「開口切欠」を具備するか)について
1(一) 本件考案の構成要件Bにいう「開口切欠」の意義について検討するに、構成要件Bは、「前記バックホークに取り付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置及び作動を妨げない開口切欠を設けるとともに」というものであり、これによれば「開口切欠」は、「カバー体」の後車輪用馬蹄錠に対応する位置に、後車輪用馬蹄錠の設置及び作動を妨げないように設けられたものであるということができるが、その形状については、実用新案登録請求の範囲の記載において特段の限定は付されていない。
被告は、本件考案の構成要件A及びCは出願前に周知の技術であり、構成要件Bは出願前公知の技術であるから、本件考案の技術的範囲は、実用新案登録請求の範囲の記載により、右記載が不明瞭の場合は、実施例、図面などを考慮してこれを最も狭く解すべきであると主張するが、本件考案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めるべきことは当然であるものの、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が不明瞭であるということはなく、仮に構成要件A及びCが出願前に周知の技術であり、構成要件Bは出願前公知の技術であったとしても(但し、少なくとも構成要件Cが出願前公知の技術であると認めるに足りる証拠はない)、本件考案の技術的範囲を実施例、図面などを考慮して最も狭く解すべきであるとすることはできない。
(二) 一般に、「開口」とは、「外に向かって穴が開くこと。また、その穴。」を、「切欠き」とは、「<1>部材接合のため切り取った部分。<2>水量測定のため、堰板から切り取った長方形または三角形の部分。ノッチ。<3>材料力学において、材料の縁(へり)に局部的にできたへこみ部。ノッチ。」を意味するものとされるから(広辞苑第四版)、「切欠き」の意義について<1>ないし<3>の中では本件に最も適切と思われる<3>を採用するとすれば、一応、「開口切欠」とは、「材料の縁(へり)に局部的に形成された、外に向かって口を開いた穴」を意味するものということができるが、右<3>の意義は「材料力学」におけるものであるから決定的なものではなく、右「開口切欠」の意義については本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載を検討しなければならないことはいうまでもない。
本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、「考案が解決しようとする課題」の項に「自転車用錠として馬蹄錠が多用されている。この錠はその全体が略馬蹄形状とされ、後泥除け部材をまたいでバックホーク側に取り付けられ、その錠止杆がスポーク間を貫挿してロックするようになっているのであるが、前記した従来技術による錠逃がし窓の構造では、馬蹄錠に適用することが難しく」(本件公報2欄6~12行)、
「課題を解決するための手段」の項に実用新案登録請求の範囲の記載と同旨、
「作用」の項に「本考案の上記した技術的手段によれば、巻込み防止カバーにおいて、バックホークに取付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置および作動を妨げない開口切欠を設けることによって、後泥除け部材をまたいで後車輪両側面に垂下する馬蹄錠の主体を容易に干渉のおそれなく設置でき、また施、解錠操作も容易に得られるとともに、この開口切欠の幅方向両側に設けた固定部を後泥除け部材側に連結固定することにより、開口切欠の変形を阻止し、強度上の弱点を生じることなく、また開口切欠であるため、防止カバーにおける両カバー体に成形することもきわめて容易化され、必要構造のシンプル化も得られるのである。」(同3欄3~15行)、
「実施例」の項に「本考案はかかる左右一対のカバー体20、21において、第1図乃至第4図に亘って示すように、後車輪4の外周に沿う円弧状外周部22、22に、先に第6図において示したバックホーク10に取付られる馬蹄錠16と対応する位置に、その設置および施、解錠操作の妨げにならない広さの開口切欠30、30を形成するのである。該開口切欠30は図示のように、円弧状外周部22から内方に入り込む前後方向の側辺30a、30aと、両側辺30a、30aの下端と係合部27の上端とをつなぐ底辺30bとによって囲まれた切欠であり、その形状はもとより自由であるが、使用される馬蹄錠16の大小、形状に応じて、その設置および施、解錠操作を妨げない適切な形状のものとされる。」(同4欄10~24行)、
「効果」の項に「本考案によれば、自転車後車輪錠として多用される馬蹄錠を用いるものにおいて、その自転車用巻込み防止カバー19における両カバー体20、21において、該馬蹄錠の設置場所と対応する円弧状外周部22、22側に、開口切欠30、30を開設するとともに、該切欠30、30を固定部31によって後泥除け部材6側に固定可能としたので、馬蹄錠16の設置やその施、開錠操作に全く支障を生じることなく、かつ衣類等の巻込み防止が得られるのである。このさい開口切欠30であるため、従来の錠逃がし窓のようにカバー体20、21の整形強度を低下させるおそれなく、開口切欠の幅方向両側は後泥除け部材6側に固定されるため、拡開変形のおそれなく、また成形に当ってもカバー体20、21の周辺に開口される切欠のため、成形工作も容易化され、より簡単な必要構造で足りる点も有利である。」(同5欄11行~6欄9行)と記載されている。
右の考案の詳細な説明の欄の記載によれば、本件考案にいう「開口切欠」とは、カバー体の後泥除け部材に沿った円弧状外周部の、バックホークに取り付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、右カバー体の円弧状外周部から内方に切り取られて外に向かって口を開き、バックホークに取り付けられた後車輪用馬蹄錠の設置及び作動を妨げない形態で設けられたものを意味するというべきである。そして、その形状や大きさについては、カバー体の有する巻込み防止機能を損なわず、かつ、馬蹄錠の設置及び作動を妨げないことを要するが、右実施例についての記載において明記されているように、それ以外の限定はないものといわなければならない。
(三) 被告は、前記実施例についての記載(本件公報4欄10~24行)によれば、「開口切欠」は、各カバー体の後車輪の外周に沿う凸状外周部22から内方へ入り込む側辺30a、30aと底辺30bによって囲まれた切欠であるから、三つの側辺ないし底辺によって囲まれた実施例記載の形状に限られないにしても、各カバー体に後車輪の外周に沿う円弧状外周部すなわち凸状外周部から内方へ入り込んで設けられるものであると解さなければならないと主張するところ、「開口切欠」が後車輪の外周に沿う円弧状外周部から内方へ入り込んで設けられるものであるとする限度では、右(二)の認定に反するものではない。
しかしながら、被告は、更に、「切欠き」についての前記(二)記載の一般的意味「材料力学において、材料の縁(へり)に局部的にできたへこみ部」における「局部的」の語を強調し、「開口切欠」は凸状外周部全体のわずかな箇所にできたへこみ部であるとか、その大きさの範囲としては、馬蹄錠の設置及び作動を妨げない大きさを下限とし、これに若干の余裕をもたさた大きさを上限とする、すなわち、その程度を超えて後車輪を覆わない程度に大きくてはならない(「馬蹄錠の設置及び作動を妨げない」必要最小限の大きさでなければならない)旨主張するが、前記のとおり右の一般的意味は決定的なものではなく、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は本件明細書の記載を考慮して解釈しなければならないところ、「開口切欠」の形状や大きさについては、カバー体の有する巻込み防止機能を損なわず、かつ、馬蹄錠の設置及び作動を妨げないことを要するが、それ以外の限定はないのであるから、被告の右主張は失当という外ない。被告のいう「馬蹄錠の設置及び作動を妨げない大きさに若干の余裕をもたせた大きさの程度を超えて後車輪を覆わない程度に大きく」ても、それが、カバー体の有する巻込み防止機能を損なう程度に達すればともかく、そうでない限り、本件考案にいう「開口切欠」に該当するのである。被告は、本件明細書の考案の詳細な説明の欄に開口切欠の大きさは無制限である旨の記載は全くないとも主張するが、そのような記載はなくても前記のように解釈することができるのである。
2(一) 被告物件のカバー体の第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1Bは、それぞれ円弧状の後泥除け部材の側縁部に沿う形状となっており、円弧状外周部(第一凸状外周部1Aと第二凸状外周部1Bを結ぶ仮想凸状外周部を含む凸状外周部)の一部を形成していることは明らかであり、この円弧状外周部から内方に切り込まれたように円弧状の凹状外周部1Cが設けられ、第一凸状外周部1Aと第二凸状外周部1Bが残るような形となっており、凹状外周部1Cによって空間が形成されていて外に向かって開いており、この空間にはバックホークに取り付けられる馬蹄錠が位置するものであり、馬蹄錠の施、解錠の作動を妨げないようなものと認められる。
したがって、被告物件の凹状外周部1Cによって形成された空間は、カバー体の後泥除け部材に沿った円弧状外周部の、バックホークに取り付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、右カバー体の円弧状外周部かる内方に切り取られて外に向かって口を開き、バックホークに取り付けられた後車輪用馬蹄錠の設置及び作動を妨げない形態で設けられたものであり、その形状や大きさは、カバー体の有する巻込み防止機能を損なわず、かつ、馬蹄錠の設置及び作動を妨げないものと認められるから、本件考案の構成要件Bにいう「開口切欠」に該当し、被告物件は構成要件Bを具備するものというべきである。
(二) 被告は、被告物件のカバー体1はいずれもその凹状外周部1Cから内方へ入り込んで設けられた何ものも有していないと主張するが、右のとおり、凹状外周部1C自体によって形成される空間自体をもって本件考案にいう「開口切欠」に該当すると認定判断するものであり、これが内方へ入り込んで設けられたものであることは明らかである。被告は、右主張の理由として、被告物件はカバー体1全体の形状そのものが弓形帯状であって凹状外周部1Cを有するので、取付状態において後車輪の外周とカバー体の外周部との間に大きな円弧状の空間が確保され、馬蹄錠設置のために公知技術のように「錠逃がし窓」を設ける必要も、本件考案のように「開口切欠」を設ける必要もないからであると主張し、また、右の大きな円弧状の空間が生じることにより結果的に馬蹄錠の設置及び作動を妨げない効果も奏することになるが、これはカバー体1全体の形状に由来するものであって、カバー体1に開口切欠を設けたことによるものではない旨主張するが、被告物件のカバー体の全体形状である弓形帯状なるものは、本件考案にいう「開口切欠」に該当する凹状外周部1Cによって形成される空間を設けた結果の全体形状であるから、右被告の主張は失当という外ない。
更に、被告は、本件考案にいう「開口切欠」が凸状外周部全体のわずかな箇所にできたへこみ部であるとか、その大きさに被告主張の上限があることを前提に、被告物件における凹状外周部1Cは凸状外周部のわずかな箇所にできたへこみ部と観念することは到底不可能であるとか、右上限を大きく超える旨主張するが、右の前提自体が採りえないことは前記1(三)説示のとおりである。
その他、被告物件における凹状外周部1Cによって形成される空間が本件考案にいう「開口切欠」に該当しないとする被告の主張は、いずれも採用することができない。
なお、被告は、被告物件は、馬蹄錠の設置及び作動を妨げないだけでなく、一般の後車輪の錠の設置及び作動も妨げないという、本件考案より優れた効果を奏するものであるとも主張するが、被告物件が一般の後車輪の錠の設置及び作動も妨げないという効果を奏するとしても、それは、本件明細書記載の実施例における「開口切欠」と比べて大きな開口切欠を設けたことによる効果であるから、その効果を奏するが故に被告物件が本件考案にいう「開口切欠」を具備しないということにはならない。
三 争点1(三)(イ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件は、構成要件Cにいう「固定部」を具備するか)について
1(一) 本件考案の構成要件Cにいう「固定部」の意義について検討するに、構成要件Cは、「該開口切欠の幅方向両側に後泥除け部材への固定部を設ける」というものであるから、右「固定部」は、開口切欠の幅方向両側に設けられ、カバー体を後泥除け部材に「固定」する部材ないし部分であることが明らかである。
そして、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、
「作用」の項に「この開口切欠の幅方向両側に設けた固定部を後泥除け部材側に連結固定することにより、開口切欠の変形を阻止し、強度上の弱点を生じることなく」(本件公報3欄9~12行)、
「実施例」の項に、開口切欠の「両側辺30a、30aの各上端における反車輪面には、後泥除け部材6の両側縁6a、6aに係脱可能に係止される挟持爪状の固定部31が突設されるのであり、これによって開口切欠30は拡開、変形のおそれなく確実に保持固定されることになる。31aは固定部31における後泥除け部材6の側縁6aの係合凹部を示しているが、これは単に側縁6aを固定部31とカバー体20、21の相対応する内外両面間に挟持する構造であっても差支えない。」(同4欄24~33行)、
「効果」の項に、「該馬蹄錠の設置場所と対応する円弧状外周部22、22側に、開口切欠30、30を開設するとともに、該切欠30、30を固定部31によって後泥除け部材6側に固定可能としたので、馬蹄錠16の設置やその施、解錠操作に全く支障を生じることなく、かつ衣類等の巻込み防止が得られるのである。このさい開口切欠30であるため、従来の錠逃がし窓のようにカバー体20、21の整形強度を低下させるおそれなく、開口切欠の幅方向両側は後泥除け部材6側に固定されるため、拡開変形のおそれなく、また成形に当ってもカバー体20、21の周辺に開口される切欠のため、成形工作も容易化され、より簡単な必要構造で足りる点も有利である。」(同5欄14行~6欄9行)、
と記載されており、これらの記載によれば、本件考案にいう「固定部」は、自転車用巻込み防止カバーのカバー体の開口切欠の幅方向両側に設けられ、カバー体を後泥除け部材に連結固定する部材ないし部分であり、その連結固定によって、開口切欠30の拡開変形、つまり開口切欠が広がるように変形するのを防止する作用、効果を有するものであると認められる。
(二) 被告は、右のような作用、実施例、効果についての記載から、右「固定部」は「開口切欠」をカバー体に設けることによってカバー体に生じる強度上の弱点を補強する目的(補強目的)で設けられるものであり、両カバー体を後泥除け部材に取り付ける目的(取付目的)で設けられるものではなく、構成要件Aにいう「バックホーク及び後泥除け部材に取付可能」における「取付」とは明確に区別されるべきものであり、両カバー体の連結や両カバー体の後泥除け部材への取付けとは全く関わりがない旨主張するが、カバー体を後泥除け部材に固定する部材ないし部分である以上、カバー体を後泥除け部材に取り付ける目的(取付目的)を有することは自明のことであり、その後泥除け部材に取り付けることによって強度上の弱点を補強する目的(補強目的)を果たすのであるから、右固定部は、取付目的と補強目的とを兼ね備えているということができ、両カバー体の連結についてはともかく、両カバー体の後泥除け部材への取付けとは全く関わりがないどころか、本来、取り付ける目的の部材ないし部分そのものである。被告は、取付目的と補強目的とを兼ね備えている場合がないことは、本件考案の実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の欄にそのような場合について何ら記載がないことから明らかである旨主張するが、実用新案登録請求の範囲には、該開口切欠の幅方向両側に「後泥除け部材への固定部」を設ける(構成要件C)と明記されているのであり、固定部を後泥除け部材に取り付けることによって補強目的を果たすことは右のとおりである。
2(一) イ号物件、ロ号物件及びハ号物件は、前記のとおり本件考案の開口切欠に該当する凹状外周部1Cによって形成された空間を有し、第二取付部5及び第三取付部6は右空間の幅方向両側に設けられ、これら第二取付部5及び第三取付部6を後泥除け部材4の縁部分に係合させることによりカバー体1を後泥除け部材4に取り付けて動かないように固定するものであり、その第二取付部5及び第三取付部6の固定によって、凹状外周部1Cが広がるように変形するのを防止する作用をすることは明らかであるから、第二取付部5及び第三取付部6は、本件考案の構成要件Cにいう「固定部」に該当し、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件は構成要件Cを具備するものというべきである。
被告は、本件考案にいう「固定部」が補強目的で設けられるものであり、取付目的で設けられるものではないことを前提に、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件のカバー体1に設けられた第二取付部及び第三取付部は取付目的で設けられたものであって、補強目的で設けられたものではないから、本件考案にいう「固定部」に該当しない旨主張するが、右前提自体が誤りであり、また、第二取付部及び第三取付部が補強目的を有することは明らかであるから、採用できない。
(二) ヘ号物件及びト号物件は、前記のとおり本件考案の開口切欠に該当する凹状外周部1Cによって形成された空間を有し、該空間の幅方向の一方に第三取付部6、6が、他方にベルト状連結部17が設けられているところ、第三取付部6は、右(一)のイ号物件、ロ号物件及びハ号物件における第三取付部6と同じ形状であるから、右(一)の説示に従い、本件考案にいう「固定部」に該当するというべきである。
また、他方のベルト状連結部17は、後泥除け部材4を跨いで左右両側から挟むようにして、第三取付部6とともにカバー体1を後泥除け部材4に取り付けて動かないように固定するものであり、そのベルト状連結部17の固定によって、凹状外周部1Cが広がるように変形するのを防止する作用をすることは明らかであるから、やはり、本件考案にいう「固定部」に該当するものというべきである。
したがって、ヘ号物件及びト号物件は、本件考案の構成要件Cを具備するものといわなければならない。
被告は、ヘ号物件及びト号物件についても、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件についてと同様の主張をするが、採用できない。
3 以上によれば、イ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件は、本件考案の構成要件AないしDをすべて具備することが明らかであるから、本件考案の技術的範囲に属するというべきである。
四 争点2(構成要件Cにいう「固定部」を具備しないニ号物件及びホ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する物の製造にのみ使用するものであるか)について
1 ニ号物件及びホ号物件は、本件考案にいう「開口切欠」に該当する凹状外周部1Cによって形成される空間の幅方向の後側にのみ「後泥除け部材への固定部」に該当する第三取付部が設けられていて、右空間の幅方向前側にはイ号物件、ロ号物件、ハ号物件におけるような第二取付部も、ヘ号物件及びト号物件におけるようなベルト状連結部17も設けられていないので、構成要件Cを具備せず、本件考案の技術的範囲に属しない。
原告は、このことを自認した上で、ニ号物件及びホ号物件は、可撓性を有する合成樹脂でできており、しかも凹状外周部により形成される「大きな円弧状の空間」(開口切欠)を備えていてそれ自体では自立し難いため、右「空間」の前側に「固定部」を設けないと、カバー体の前部が自転車の振動等により左右に振れ、後泥除け部材に当たって不快音が発生したり、スポークに食い込んだりする危険性が高く、実際の使用に堪えないことが明らかであるところ、左右のカバー体に残された四角形状の小枠体同士を紐材や針金等で互いに連結すれば、極めて容易に本件考案にかかる自転車用巻込み防止カバーを実現することができるから、市場に出た場合ユーザーがあえてこれらを使用するとすれば自らこの小枠体同士を紐材や針金等で互いに連結することにより「固定部」に仕立てる蓋然性がきわめて高い、あるいは、被告は、右「空間」の幅方向前側の取付部を欠落させたニ号物件及びホ号物件を製造、販売しているとしながら、その後すぐにその製造販売をやめ、同じ部分にベルト状連結部17を備えたヘ号物件及びト号物件の製造販売を始めたというのであって、かかる経緯に鑑みれば被告自身も、右空間の幅方向前側に「固定部」を有しないカバー体では実際の使用に堪えないことを十分に認識しているものと解されるので、被告が右のような紐材や針金等の連結部材を別売りするおそれもあるとして、ニ号物件及びホ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する自転車用巻込み防止カバーの製造にのみ使用する物であり、その製造販売及び展示は本件実用新案権のいわゆる間接侵害を構成する旨主張する。
実用新案法二八条にいう「登録実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物」とは、その物が登録実用新案にかかる物品の製造に使用する以外に社会通念上経済的、商業的ないし実用的と認められる用途を有しないことをいうと解すべきところ、ニ号物件及びホ号物件は、左右のカバー体1がベルト状連結部7によって連結されており、自転車への取付けは、右ベルト状連結部7及び連結用ベルト8を後泥除け部材4に跨がせるようにして取り付けるとともに、第一取付部3をバックホーク2に、第三取付部6を後泥除け部材4の側縁部に固定することによって行うものであるから、イ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件と比べると前記空間(開口切欠)の幅方向前側の小枠体近傍においてカバー体が若干変形しやすいとは考えられるものの、巻込み防止機能を十分に果たすと認められ、右小枠体同士を紐材や針金等で互いに連結しなくても実際の使用に堪えるものと考えられる。
そうすると、ニ号物件及びホ号物件は、何らの付加的加工や組付けを要することなくそのまま使用するという、本件考案にかかる物品の製造に使用する以外の社会通念上経済的、商業的ないし実用的と認められる「他の用途」を有しており、むしろこれが通常の用途と認められるから、本件考案にかかる物品の製造にのみ使用するものとは到底いえない。
2 したがって、ニ号物件及びホ号物件の製造販売及び展示は、本件実用新案権のいわゆる間接侵害を構成しないから、被告に対しニ号物件及びホ号物件について差止め、廃棄、除却を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。
五 争点3(被告は、将来被告物件を製造、販売するおそれがあるか)について
被告は、被告は平成七年三月一日に債権者集会を開催し、同日以降会社の清算を目的とする任意整理のため法人としての実際上の活動を一切停止し、被告物件の製造販売を含む一切の製造販売活動を行っておらず、また、将来それを再開する可能性も全くないから、原告は被告に対し被告物件の製造販売及び展示の差止めを求める権利を有しない旨主張するところ、証拠(甲一二の1・2、乙一二の1~3)によれば、被告は、平成七年二月二八日に手形の不渡りを出し、翌三月一日、債権者集会を開催したこと、同日以降は被告物件の製造販売を行っていないことが認められる。
しかしながら、被告は、本件訴訟において、被告物件が本件考案の技術的範囲に属することを訴訟手続の最終段階まで全面的に争っているのみならず、右手形不渡り、債権者集会開催の事実を主張したのは、それから計五回の口頭弁論期日(第五回ないし第九回)を経、この間に計五通の準備書面(第三ないし第七準備書面)を提出、陳述した後の平成八年一月三〇日の第一〇回口頭弁論期日のことであり、しかも、原告が訴訟手続の最終段階において「被告は被告物件を製造、販売しないこと、原告は本件損害賠償請求権を放棄すること」のみを内容とする和解を申し入れたのにこれに応じないなど被告の応訴態度に照らせば、なお被告は将来において再度被告物件を製造販売するおそれがあるといわなければならない。
したがって、被告に対し、本件考案の技術的範囲に属するイ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件の製造販売及び販売のための展示の差止め(予防)並びに右各物件(完成品)及びその半製品の廃棄、右各物件の製造に供した金型の除却を求める原告の請求は理由があるというべきである。
六 争点4(被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について
1 以上によれば、被告は、本件考案の技術的範囲に属するイ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件の製造販売により本件実用新案権(但し、出願公告の日である平成三年一二月一〇日から登録日の前日である平成四年九月二三日まではいわゆる仮保護の権利)を侵害したものであり、これにより原告の被った損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。
しかして、原告は、本件訴状において、被告は本件考案の出願公告の日である平成三年一二月一〇日から平成六年六月二八日までの間に、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件を少なくとも一〇〇万枚製造、販売し、一枚当たり平均して少なくとも二五円の利益を得たから、合計二五〇〇万円の利益を得た旨主張していたが、その後、平成六年一一月一七日付準備書面による訴えの追加的変更により、差止めの対象物件としてニ号物件、ホ号物件、ヘ号物件及びト号物件を追加したものの、損害賠償を求める期間の終期を平成六年六月二八日から延長するべく変更する旨の主張はしていないし、ニ号物件、ホ号物件、ヘ号物件及びト号物件の販売期間、販売数量及び一枚当たりの利益の額についても主張をしていない。
そして、被告が、被告物件の製造販売期間につき、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件は平成六年七月二一日までの間、ニ号物件及びホ号物件は同年八月二三日から同年九月六日までの間、ヘ号物件及びト号物件は同月一七日から平成七年二月二八日までの間である旨主張するのに対し、原告がニ号物件、ホ号物件、ヘ号物件及びト号物件の製造販売の開始時期についてこれに反するような具体的、明確な主張立証をしないことを併せ考えると、原告の右訴えの追加的変更は、差止請求の対象物件としてニ号物件、ホ号物件、ヘ号物件及びト号物件を追加するのみで、損害賠償請求については、対象物件として右各物件を追加することなく、従前の主張を維持するものと解される。
2 原告の文書提出命令の申立てに基づき当裁判所がしたイ号物件、ロ号物件及びハ号物件について記載のある売上帳、原材料の仕入帳、販売費及び一般管理費並びに利益率について記載のある帳簿の提出命令に被告が応じずこれを提出しなかったことは、当裁判所に顕著な事実であり、その不提出に正当な理由があるとも認められないから、右文書に関する相手方たる原告の主張を真実と認めることができるところ(民訴法三一六条)、原告は、右文書提出命令申立てにおいて明示的に主張していないものの、原告の右主張の趣旨に照らし、提出を求める文書に、前記期間におけるイ号物件、ロ号物件及びハ号物件の販売数の合計が一〇〇万枚であり、一枚当たりの利益の額が二五円であるとの記載がある旨黙示的に主張していたものということができる。
そして、証拠(甲九、一〇、一一及び一二の各1・2)によれば、原告の平成四年度から平成八年度までの間の本件実用新案権の実施品である自転車用巻込み防止カバーの販売数量は合計六七四万一七三九個、一年間の平均で一三四万八三四七個であり、粗利益の合計額は二億八一七三万九八八九円であり、一個当たりの平均粗利益の額は四一・七九円であること、原告の平成四年度から平成八年度までの平均年間売上高は、約四三億円であること、被告代表者高田豊は、業界誌である「サイクルビジネス」(平成七年四月一日発行)の同誌記者から被告の手形不渡りについてインタビューを受けた際、「平成三年には三王工業で八億円を上回る売上げがあったのに、五年、六年と一億ずつ数字が落ちていまして…」と答えていることが認められる。
右事実によれば、被告の年間総売上高は平成三年度が八億円を上回り、その後平成五年度には七億円、平成六年度には六億円ということになり、原告が本件において損害賠償請求の対象としている平成三年一二月一〇日から平成六年六月二八日までの期間の平均年間売上高は七億円と認めるのが相当であるから、被告の営業規模は、その平均年間売上高の比較から原告の一六・二八%であるところ、被告の総売上高(平均年間売上高)に占める被告物件の売上高の割合は、これに関する特段の資料のない本件においては、業態を同じくする原告の総売上高(平均年間売上高)に占める本件考案の実施品の割合と同じと推認するのが相当であるから、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件の平成三年一二月一〇日から平成六年六月二八日までの間(三〇か月と三〇分の一九か月)の販売数量は、五六万〇三六二枚と認められる(1,348,347×0.1628×(30+19/30)÷12=560,362)。
そして、原告の本件考案の実施品の一枚当たりの粗利益の額は、前記のとおり四一・七九円であるから、被告物件の一枚当たりの利益の額に関する原告の主張は証拠上ある程度裏付けられているということができる。そこで、当裁判所は、被告において提出を拒んだ前記各文書に関する原告の主張を真実と認めることとし、イ号物件、ロ号物件及びハ号物件の一枚当たりの利益の額は二五円であると認めるのが相当である。
したがって、被告がイ号物件、ロ号物件及びハ号物件の製造販売により得た利益の額は、一枚当たりの利益の額二五円に前記販売数量五六万〇三六二枚を乗じた一四〇〇万九〇五〇円ということになり、実用新案法二九条一項により、右金額が原告の被った損害の額と推定される。
3 したがって、原告は被告に対し、本件実用新案権の侵害による損害賠償として、金一四〇〇万九〇五〇円の支払を求めることができる。
第五 結論
以上のとおり、原告の請求は、被告に対し、イ号物件、ロ号物件、ハ号物件、ヘ号物件及びト号物件の製造販売及び展示の差止め、被告の本店、営業所及び工場に存する右各物件(完成品)及びその半製品の廃棄、右各物件の製造に供した金型の除却を求め、本件実用新案権の侵害による損害賠償として金一四〇〇万九〇五〇円及びこれに対する不法行為の後の日である平成六年七月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして認容すべきであり、その余は理由なしとして棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)
イ号物件目録
一 イ号物件図面の説明
1 第1図は、自転車用巻込み防止カバー(以下「イ号物件」という)の展開平面図である。
第2図は、イ号物件の斜視図である。
第3図は、イ号物件を取り付けた自転車の後部の側面図である。
2 各図における参照番号は、それぞれイ号物件及び自転車の次の部分を示す。
1…………カバー体
1A…………第一凸状外周部(カバー体の一端部)
1B…………第二凸状外周部(カバー体の他端部)
1C…………凹状外周部(カバー体の一側部)
1D…………第三凸状外周部(カバー体の他側部)
2…………自転車のバックホーク
3…………第一取付部(バックホークへの取付部)
4…………自転車の後泥除け部材
5…………第二取付部(後泥除け部材への取付部)
6…………第三取付部(後泥除け部材への取付部)
7…………ベルト状連結部
8…………連結用ベルト
9…………受け部
10…………馬蹄錠
二 構造(第1図)
1 イ号物件にかかる自転車用巻込み防止カバーは、自転車の後車輪における左右両側を弓形帯状に覆う一対のカバー体1からなる。
2 各カバー体1は、全体に弓形帯状の形状を有し、互いに隔てられた第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1B(すなわち、カバー体の一端部及び他端部)と、両凸状外周部1A、1B間にあってこれらに連なる凹状外周部1C及び第三凸状外周部1D(すなわち、カバー体の一側部と他側部)とを有する。
3 各カバー体1は、そのほぼ中央に、該カバー体1を自転車のバックホーク2(第2、第3図)に取り付けるための第一取付部3を備える。
4 各カバー体1は、その第一凸状外周部1Aの内端及び第二凸状外周部1Bの内端に、それぞれ該カバー体1を自転車の後泥除け部材4(第2、第3図)に取り付けるための第二取付部5及び第三取付部6を備える。
5 両カバー体1は、それらの第一凸状外周部1Aの外端において、ベルト状連結部7により一体的に連結されている。
6 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの外端に、連結用ベルト8(第1、第2図)を受け入れて固定する受け部9を有する。連結用ベルト8は予め一方のカバー体1の受け部9に固定されている。
三 使用時における自転車への取付け(第2、第3図)
1 ベルト状連結部7により連結されているカバー体1のそれぞれを、自転車後車輪の一方側及び他方側に配置する。
2 第一取付部3により、各カバー体1をバックホーク2に取り付ける。
3 第二取付部5及び第三取付部6をそれぞれ後泥除け部材4の縁部分に係合させて、各カバー体1を後泥除け部材4に取り付ける。
4 連結用ベルト8を他方のカバー体1の受け部9に固定し、両カバー体1を第二凸状外周部1Bの外端で相互に連結する。
イ号物件図面
<省略>
<省略>
ロ号物件目録
一 ロ号物件図面の説明
1 第1図は、自転車用巻込み防止カバー(以下「ロ号物件」という)の展開平面図である。
第2図は、ロ号物件の斜視図である。
2 各図における参照番号は、それぞれロ号物件の次の部分を示す。
1…………カバー体
1A…………第一凸状外周部(カバー体の一端部)
1B…………第二凸状外周部(カバー体の他端部)
1C…………凹状外周部(カバー体の一側部)
1D…………第三凸状外周部(カバー体の他側部)
3…………第一取付部(バックホークへの取付部)
5…………第二取付部(後泥除け部材への取付部)
6…………第三取付部(後泥除け部材への取付部)
7…………ベルト状連結部
8…………連結用ベルト
9…………受け部
二 構造
1 ロ号物件にかかる自転車用巻込み防止カバーは、自転車の後車輪における左右両側を弓形帯状に覆う一対のカバー体1からなる。
2 各カバー体1は、全体に弓形帯状の形状を有し、互いに隔てられた第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1B(すなわち、カバー体の一端部及び他端部)と、両凸状外周部1A、1B間にあってこれらに連なる凹状外周部1C及び第三凸状外周部1D(すなわち、カバー体の一側部と他側部)とを有する。
3 各カバー体1は、そのほぼ中央に、該カバー体1を自転車のバックホーク(図示せず)に取り付けるための第一取付部3を備える。
4 各カバー体1は、その第一凸状外周部1Aの内端及び第二凸状外周部1Bの内端に、それぞれ該カバー体1を自転車の後泥除け部材(図示せず)に取り付けるための第二取付部5及び第三取付部6を備える。
5 両カバー体1は、それらの第一凸状外周部1Aの外端において、ベルト状連結部7により一体的に連結されている。
6 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの外端に、連結用ベルト8の一端部を受け入れて固定する受け部9を有する。連結用ベルト8は予め一方のカバー体1の受け部9に固定されている。
三 使用時における自転車への取付け
1 ベルト状連結部7により連結されているカバー体1のそれぞれを、自転車後車輪の一方側及び他方側に配置する。
2 第一取付部3により、各カバー体1をバックホークに取り付ける。
3 第二取付部5及び第三取付部6をそれぞれ後泥除け部材の縁部分に係合させて、各カバー体1を後泥除け部材に取り付ける。
4 連結用ベルト8の他端部を他方のカバー体1の受け部9に差し込んで固定し、両カバー体1を第二凸状外周部1Bの外端で相互に連結する。
ロ号物件図面
<省略>
ハ号物件目録
一 ハ号物件図面の説明
1 第1図は、自転車用巻込み防止カバー(以下「ハ号物件」という)の展開平面図である。
第2図は、ハ号物件の斜視図である。
2 各図における参照番号は、それぞれハ号物件の次の部分を示す。
1…………カバー体
1A…………第一凸状外周部(カバー体の一端部)
1B…………第二凸状外周部(カバー体の他端部)
1C…………凹状外周部(カバー体の一側部)
1D…………第三凸状外周部(カバー体の他側部)
3…………第一取付部(バックホークへの取付部)
5…………第二取付部(後泥除け部材への取付部)
6…………第三取付部(後泥除け部材への取付部)
7…………ベルト状連結部
8…………連結用ベルト
9…………受け部
二 構造
1 ハ号物件にかかる自転車用巻込み防止カバーは、自転車の後車輪における左右両側を弓形帯状に覆う一対のカバー体1からなる。
2 各カバー体1は、全体に弓形帯状の形状を有し、互いに隔てられた第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1B(すなわち、カバー体の一端部及び他端部)と、両凸状外周部1A、1B間にあってこれらに連なる凹状外周部1C及び第三凸状外周部1D(すなわち、カバー体の一側部と他側部)とを有する。
3 各カバー体1は、そのほぼ中央に、該カバー体1を自転車のバックホーク(図示せず)に取り付けるための第一取付部3を備える。
4 各カバー体1は、その第一凸状外周部1Aの内端及び第二凸状外周部1Bの内端に、それぞれ該カバー体1を自転車の後泥除け部材(図示せず)に取り付けるための第二取付部5及び第三取付部6を備える。
5 両カバー体1は、それらの第一凸状外周部1Aの外端において、ベルト状連結部7により一体的に連結されている。
6 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの外端に、連結用ベルト8の一端部を受け入れて固定する受け部9を有する。連結用ベルト8は予め一方のカバー体1の受け部9に固定されている。
三 使用時における自転車への取付け
1 ベルト状連結部7により連結されているカバー体1のそれぞれを、自転車後車輪の一方側及び他方側に配置する。
2 第一取付部3により、各カバー体1をバックホークに取り付ける。
3 第二取付部5及び第三取付部6をそれぞれ後泥除け部材の縁部分に係合させて、各カバー体1を後泥除け部材に取り付ける。
4 連結用ベルト8の他端部を他方のカバー体1の受け部9に差し込んで固定し、両カバー体1を第二凸状外周部1Bの外端で相互に連結する。
ハ号物件図面
<省略>
ニ号物件目録
一 ニ号物件図面の説明
1 第1図は、自転車用巻込み防止カバー(以下「ニ号物件」という)の展開平面図である。
第2図は、ニ号物件の斜視図である。
2 各図における参照番号は、それぞれニ号物件及び自転車の次の部分を示す。
1…………カバー体
1A…………第一凸状外周部(カバー体の一端部)
1B…………第二凸状外周部(カバー体の他端部)
1C…………凹状外周部(カバー体の一側部)
1D…………第三凸状外周部(カバー体の他側部)
2…………自転車のバックホーク
3…………第一取付部(バックホークへの取付部)
4…………自転車の後泥除け部材
6…………第三取付部(後泥除け部材への取付部)
7…………ベルト状連結部
8…………連結用ベルト
9…………受け部
二 構造(第1図)
1 ニ号物件にかかる自転車用巻込み防止カバーは、自転車の後車輪における左右両側を弓形帯状に覆う一対のカバー体1からなる。
2 各カバー体1は、全体に弓形帯状の形状を有し、互いに隔てられた第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1B(すなわち、カバー体の一端部及び他端部)と、両凸状外周部1A、1B間にあってこれらに連なる凹状外周部1C及び第三凸状外周部1D(すなわち、カバー体の一側部と他側部)とを有する。
3 各カバー体1は、そのほぼ中央に、該カバー体1を自転車のバックホーク2(第2図)に取り付けるための第一取付部3を備える。
4 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの内端に、該カバー体1を自転車の後泥除け部材4(第2図)に取り付けるための第三取付部6を備える。
5 両カバー体1は、それらの第一凸状外周部1Aの外端において、ベルト状連結部7により一体的に連結されている。
6 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの外端に、連結用ベルト8の一端部を受け入れて固定する受け部9を有する。連結用ベルト8は予め一方のカバー体1の受け部9に固定されている。
三 使用時における自転車への取付け(第2図)
1 ベルト状連結部7により連結されているカバー体1のそれぞれを、自転車後車輪の一方側及び他方側に配置する。
2 第一取付部3により、各カバー体1をバックホーク2に取り付ける。
3 第三取付部6を後泥除け部材4の縁部分に係合させて、各カバー体1を後泥除け部材4に取り付ける。
4 連結用ベルト8の他端部を他方のカバー体1の受け部9に差し込んで固定し、両カバー体1を第二凸状外周部1Bの外端で相互に連結する。
ニ号物件図面
<省略>
ホ号物件目録
一 ホ号物件図面の説明
1 第1図は、自転車用巻込み防止カバー(以下「ホ号物件」という)の展開平面図である。
第2図は、ホ号物件の斜視図である。
2 各図における参照番号は、それぞれホ号物件及び自転車の次の部分を示す。
1…………カバー体
1A…………第一凸状外周部(カバー体の一端部)
1B…………第二凸状外周部(カバー体の他端部)
1C…………凹状外周部(カバー体の一側部)
1D…………第三凸状外周部(カバー体の他側部)
2…………自転車のバックホーク
3…………第一取付部(バックホークへの取付部)
4…………自転車の後泥除け部材
6…………第三取付部(後泥除け部材への取付部)
7…………ベルト状連結部
8…………連結用ベルト
9…………受け部
二 構造(第1図)
1 ホ号物件にかかる自転車用巻込み防止カバーは、自転車の後車輪における左右両側を弓形帯状に覆う一対のカバー体1からなる。
2 各カバー体1は、全体に弓形帯状の形状を有し、互いに隔てられた第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1B(すなわち、カバー体の一端部及び他端部)と、両凸状外周部1A、1B間にあってこれらに連なる凹状外周部1C及び第三凸状外周部1D(すなわち、カバー体の一側部と他側部)とを有する。
3 各カバー体1は、そのほぼ中央に、該カバー体1を自転車のバックホーク2(第2図)に取り付けるための第一取付部3を備える。
4 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの内端に、該カバー体1を自転車の後泥除け部材4(第2図)に取り付けるための第三取付部6を備える。
5 両カバー体1は、それらの第一凸状外周部1Aの外端において、ベルト状連結部7により一体的に連結されている。
6 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの外端に、連結用ベルト8の一端部を受け入れて固定する受け部9を有する。連結用ベルト8は予め一方のカバー体1の受け部9に固定されている。
三 使用時における自転車への取付け(第2図)
1 ベルト状連結部7により連結されているカバー体1のそれぞれを、自転車後車輪の一方側及び他方側に配置する。
2 第一取付部3により、各カバー体1をバックホーク2に取り付ける。
3 第三取付部6を後泥除け部材4の縁部分に係合させて、各カバー体1を後泥除け部材4に取り付ける。
4 連結用ベルト8の他端部を他方のカバー体1の受け部9に差し込んで固定し、両カバー体1を第二凸状外周部1Bの外端で相互に連結する。
ホ号物件図面
<省略>
ヘ号物件目録
一 ヘ号物件図面の説明
1 第1図は、自転車用巻込み防止カバー(以下「ヘ号物件」という)の展開平面図である。
第2図は、ヘ号物件の斜視図である。
2 各図における参照番号は、それぞれヘ号物件及び自転車の次の部分を示す。
1…………カバー体
1A…………第一凸状外周部(カバー体の一端部)
1B…………第二凸状外周部(カバー体の他端部)
1C…………凹状外周部(カバー体の一側部)
1D…………第三凸状外周部(カバー体の他側部)
2…………自転車のバックホーク
3…………第一取付部(バックホークへの取付部)
4…………自転車の後泥除け部材
6…………第三取付部(後泥除け部材への取付部)
7、17…………ベルト状連結部
8…………連結用ベルト
9…………受け部
二 構造(第1図)
1 ヘ号物件にかかる自転車用巻込み防止カバーは、自転車の後車輪における左右両側を弓形帯状に覆う一対のカバー体1からなる。
2 各カバー体1は、全体に弓形帯状の形状を有し、互いに隔てられた第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1B(すなわち、カバー体の一端部及び他端部)と、両凸状外周部1A、1B間にあってこれらに連なる凹状外周部1C及び第三凸状外周部1D(すなわち、カバー体の一側部と他側部)とを有する。
3 各カバー体1は、そのほぼ中央に、該カバー体1を自転車のバックホーク2(第2図)に取り付けるための第一取付部3を備える。
4 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの内端に、該カバー体1を自転車の後泥除け部材4(第2図)に取り付けるための第三取付部6を備える。
5 両カバー体1は、それらの第一凸状外周部1Aの外端及び内端において、ベルト状連結部7、17により一体的に連結されている。
6 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの外端に、連結用ベルト8の一端部を受け入れて固定する受け部9を有する。連結用ベルト8は予め一方のカバー体1の受け部9に固定されている。
三 使用時における自転車への取付け(第2図)
1 ベルト状連結部7、17により連結されているカバー体1のそれぞれを、自転車後車輪の一方側及び他方側に配置する。
2 第一取付部3により、各カバー体1をバックホーク2に取り付ける。
3 第三取付部6を後泥除け部材4の縁部分に係合させて、各カバー体1を後泥除け部材4に取り付ける。
4 連結用ベルト8の他端部を他方のカバー体1の受け部9に差し込んで固定し、両カバー体1を第二凸状外周部1Bの外端で相互に連結する。
ヘ号物件図面
<省略>
ト号物件目録
一 ト号物件図面の説明
1 第1図は、自転車用巻込み防止カバー(以下「ト号物件」という)の展開平面図である。
第2図は、ト号物件の斜視図である。
2 各図における参照番号は、それぞれト号物件及び自転車の次の部分を示す。
1…………カバー体
1A…………第一凸状外周部(カバー体の一端部)
1B…………第二凸状外周部(カバー体の他端部)
1C…………凹状外周部(カバー体の一側部)
1D…………第三凸状外周部(カバー体の他側部)
2…………自転車のバックホーク
3…………第一取付部(バックホークへの取付部)
4…………自転車の後泥除け部材
6…………第三取付部(後泥除け部材への取付部)
7、17…………ベルト状連結部
8…………連結用ベルト
9…………受け部
二 構造(第1図)
1 ト号物件にかかる自転車用巻込み防止カバーは、自転車の後車輪における左右両側を弓形帯状に覆う一対のカバー体1からなる。
2 各カバー体1は、全体に弓形帯状の形状を有し、互いに隔てられた第一凸状外周部1A及び第二凸状外周部1B(すなわち、カバー体の一端部及び他端部)と、両凸状外周部1A、1B間にあってこれらに連なる凹状外周部1C及び第三凸状外周部1D(すなわち、カバー体の一側部と他側部)とを有する。
3 各カバー体1は、そのほぼ中央に、該カバー体1を自転車のバックホーク2(第2図)に取り付けるための第一取付部3を備える。
4 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの内端に、該カバー体1を自転車の後泥除け部材4(第2図)に取り付けるための第三取付部6を備える。
5 両カバー体1は、それらの第一凸状外周部1Aの外端及び内端において、ベルト状連結部7、17により一体的に連結されている。
6 各カバー体1は、その第二凸状外周部1Bの外端に、連結用ベルト8の一端部を受け入れて固定する受け部9を有する。連結用ベルト8は予め一方のカバー体1の受け部9に固定されている。
三 使用時における自転車への取付け(第2図)
1 ベルト状連結部7、17により連結されているカバー体1のそれぞれを、自転車後車輪の一方側及び他方側に配置する。
2 第一取付部3により、各カバー体1をバックホーク2に取り付ける。
3 第三取付部6を後泥除け部材4の縁部分に係合させて、各カバー体1を後泥除け部材4に取り付ける。
4 連結用ベルト8の他端部を他方のカバー体1の受け部9に差し込んで固定し、両カバー体1を第二凸状外周部1Bの外端で相互に連結する。
ト号物件図面
<省略>
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 平3-55509
<51>Int.CI.5 B 62 J 21/00 識別記号 庁内整理番号 6941-3D <24><44>公告 平成3年(1991)12月10日
請求項の数 1
<54>考案の名称 自転車用巻込み防止カバー
<21>実願 昭63-157734 <55>公開 平2-77195
<22>出願 昭63(1988)12月3日 <43>平2(1990)6月13日
<72>考案者 木村景雨 大阪府東大阪市高井田本通5丁目27番地の2 大阪グリツプ化工株式会社内
<71>出願人 大阪グリツプ化工株式会社 大阪府東大阪市高井田本通5丁目27番地の2
<74>代理人 弁理士 安田敏雄
審査官 玉城信一
<57>実用新案登録請求の範囲
自転車の後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体からなり、該カバー体はいずれもバツクホークおよび後泥除け部材に取付可能とされる自転車用巻込み防止カバーにおいて、前記バツクホークに取付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置および作動を妨げない開口切欠を設けるとともに、該開口切欠の幅方向両側に後泥除け部材への固定部を設けることを特徴とする自転車用巻込み防止カバー。
考案の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本考案は、自転車の後車輪にスカート等の衣類が巻込まれるのを防止する自転車用巻込み防止カバーの提供に関する。
(従来の技術)
従来、自転車の後車輪にスカート等の衣類が巻込まれるのを防止する巻込み防止カバーがあり、安全性のために後車輪側に装着されるのが通例である。処が自転車によつては、後車輪側に自転車錠を取付けるものが多く、この場合、巻込み防止カバーは当然錠に当接したり、錠の施、解錠に支障を来たし、装着できない不便がある。この問題を解決するため、錠と干渉することなく装着可能とされた巻込み防止カバーが提案されている。即ち実開昭62-86293号公報に開示されたものがそれであつて、その詳細は同号公報に譲るが、バツクホークに取付けられる後車輪用錠と対応する位置に、該錠を避けるための錠逃がし窓を明けたものである。
(考案が解決しようとする課題)
既知のように自転車用錠として馬蹄錠が多用されている。この錠はその全体が略馬蹄形状とされ、後泥除け部材をまたいでバツクホーク側に取付けられ、その錠止杆がスボーク間を貫挿してロツクするようになつているのであるが、前記した従来技術による錠逃がし窓の構造では、馬蹄錠に適用することが難しく、また防止カバーの成形工作も面倒であるとともに、窓孔の存在はカバーの整形強度を弱化する不利もある。
(課題を解決するための手段)
本考案は上記した問題点を解決し、馬蹄錠に好適に利用可能な防止カバーを提案するもので、具体的には、自転車の後車輪における左右両側を覆う一対のカバー体からなり、該カバー体はいずれもバツクホークおよび後泥除け部材に取付可能とされる自転車用巻込み防止カバーにおいて、前記バツクホークに取付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置および作動を妨げない開口切欠を設けるとともに、該開口切欠の幅方向両側に後泥除け部材への固定部を設けることにある。
(作用)
本考案の上記した技術的手段によれば、巻込み防止カバーにおいて、バツクホークに取付けられる後車輪用馬蹄錠と対応する位置に、該馬蹄錠の設置および作動を妨げない開口切欠を設けることによつて、後泥除け部材をまたいで後車輪両側面に垂下する馬蹄錠の主体を容易に干渉のおそれなく設置でき、また施、解錠操作も容易に得られるとともに、この開口切欠の幅方向両側に設けた固定部を後泥除け部材側に連結固定することにより、開口切欠の変形を阻止し、強度上の弱点を生じることなく、また開口切欠であるため、防止カバーにおける両カバー体に成形することもきわめて容易化され、必要構造のシンブル化も得られるのである。
(実施例)
本考案の適切な実施例を、第1図乃至第7図に亘つて説示する。
第6図において、自転車1のフレーム2における前後には前車輪3、後車輪4が支持され、両車輪3、4の上部外周は前泥除け部材5、後泥除け部材6により被覆されるとともに、両泥除け部材5、6はそれぞれステー7、7および3、3に支持される。前車輪3を支持するフロントホーク9に対し、フレーム2のサドル11の近傍から後車輪軸12の近傍間にはバツクホーク10が架設され、サドル11の背後には、キヤリヤ13がステー14により後泥除けカバー6の上方に位置して設けられ、15はチエンカバーを示している。かかる公知の自転車においてバツクホーク10の上部には、既知の後車輪用の馬蹄錠16がボルト等の取付金具によつて固定され、馬蹄錠16の主体は後泥除けカバー6をまたいで後車輪4の両側面に垂下され、開閉可能な錠止杆がスボーク間を貫挿することにより、ロツクを行うようにされている。
本考案の巻込み防止カバー19は第6図にその取付状態、第1図に全体の開展状態を示すように、略対称形状の左右一対のカバー体20、21からなり、後車輪4の外周に沿う円弧状外周部22、22とチエンカバー15に沿う前下端部23、23とステー8に沿う後縁部24とからなり、各カバー体20、21は可撓性を有する合成樹脂製であり、チエンカバー15とステー14とで区切られる後車輪4の側面を覆う扇形状に一体成形され、横桟25および縦桟26によるクロスネツト面とされている。また各カバー体20、21の前後方向の略中央部には、バツクホーク10に沿うように略ホーク10と同じ寸法の間隔を有する係合部27が設けられ、その両端にはホーク10と同径の円弧状の嵌合部28が設けられ、該嵌合部28には一対の突起29が設けられ、バツクホーク10に嵌脱可能に嵌合される。
本考案はかかる左右一対のカバー体20、21において、第1図乃至第4図に亘つて示すように、後車輪4の外周に沿う円弧状外周部22、22に、先に第6図において示したバツクホーク10に取付けられる馬蹄錠16と対応する位置に、その設置および施、解錠操作の妨げにならない広さの開口切欠30、30を形成するのである。該開口切欠30は図示のように、円弧状外周部22から内方に入り込む前後方向の側辺30a、30aと、両側辺30a、30aの下端と係合部27の上端とをつなぐ底辺30bとによつて囲まれた切欠であり、その形状はもとより自由であるが、使用される馬蹄錠16の大小、形状に応じて、その設置および施、解錠操作を妨げない適切な形状のものとされる。また両側辺30a、30aの各上端における反車輪面には、後泥除け部材6の両側縁6a、6aに係脱可能に係止される挟持爪状の固定部31が突設されるのであり、これによつて開口切欠30は拡開、変形のおそれなく確実に保持固定されることになる。31aは固定部31における後泥除け部材6の側縁6aの係合凹部を示しているが、これは単に側縁6aを固定部31とカバー体20、21の相対応する内外両面問に挟持する構造であつても差支えない。
実施例においては、両カバー体20、21の連結構造として、第1図および第5、7図に例示するように、一方のカバー体21の円弧状外周部22の後部側に、両側縁を鋸歯部34aとした連結係合片34が一体に突設され、これに対し他方のカバー体20の円弧状外周部22の後部側に、前記係合片34と対応して連結係止片35を突設するのであり、該連結係止片35には連結係合片34の挿通可能な挿通孔35a、35bと係止部35cとが設けられ、これにより両係合片34および係止片35は係脱可能に連結される。
また両カバー体20、21の円弧状外周部22、22の前部側は帯板状の連結片36により一体化されており、また前記係合片34および係止片35と連結片36とはいずれも、後泥除け部材6上にまたがるようにその外面に沿つて円弧状に配設されるが、これらはいずれも図例のみに限定されることなく、自由に設計可能である。また防止カバーの材料としては合成樹脂材のみでなく、防錆処理した金属材料によることもできる。
(考案の効果)
本考案によれば、自転車後車輪錠として多用される馬蹄錠を用いるものにおいて、その自転車用巻込み防止カバー19における両カバー体20、21において、該馬蹄錠の設置場所と対応する円弧状外周部22、22側に、開口切欠30、30を開設するとともに、該切欠30、30を固定部31によつて後泥除け部材6側に固定可能としたので、馬蹄錠16の設置やその施、解錠操作に全く支障を生じることなく、かつ衣類等の巻込み防止が得られるのである。このさい開口切欠30であるため、従来の錠逃がし窓のようにカバー体20、21の整形強度を低下させるおそれなく、開口切欠の幅方向両側は後泥除け部材6側に固定されるため、拡開変形のおそれなく、また成形に当つてもカバー体20、21の周辺に開口される切欠のため、成形工作も容易化され、より簡単な必要構造で足りる点も有利である。
図面の簡単な説明
第1図は本考案実施例の展開平面図、第2図は同要部の正面図、第3図は同平面図、第4図は第2図Ι-Ι線断面図、第5図は同実施例の組立平面図、第6図は同実施例を用いた自転車1例の正面図、第7図は連結構造実施例の斜視図である。
16……馬蹄錠、19……巻込み防止カバー、20、21……カバー体、30……開口切欠、27……バツクホーク係合部。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
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第7図
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第5図
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第6図
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実用新案公報
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